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中秋のお月様

「お月様とお日様どっちが好き?一個しか選べないよ」

突然の質問に答えを迷っていると質問してきた本人が先に答える

「わたしはねぇ お月様が好き だって綺麗だから」


4歳の娘はお月様派だった


娘は優柔不断な両親を持ちながら 信じられないほどものごとに対して迷いがなく

時々そんな彼女の決断力に助けられることがある

娘からすれば 理由なんてないし 深く考える方がおかしいのだろうが かつて自分にもこんな「直感力」みたいなものがあったのだろうか いつの間にか失われたものなのか 元から備わっていなかったのか なんて考えるだけ無駄のようなことにまた脳と時間を使ってしまう

娘は答えをせがんではこなかったが もし求められたなら わたしも「月」なのかもなぁ

星の輝きさえ遮るもののない田舎の夜空 遅くまで机にかじりついて受験勉強した後 窓から差し込む月の薄明かりで眠りにつくとか 青春時代の胸がざわつく度にランニングと偽って出かけ 橋の上で月と星を見上げてみたり 田舎にいた頃はよく月を見ていた

都会に住んでからも月夜には特別な感情が沸き起こるし いつまでもあの実家の部屋の窓から差し込む月明かりを忘れられないでいる

太陽に比べて圧倒的に月と過ごす時間は短いのに その時間軸を歪ませるほど 月の美しさはわたしを惹きつける

娘が月をきれいという理由はおそらくない でもなんとも言えないけど魅力的 そのわたしの感性が娘の中にあったら嬉しいなぁなんて思ったりした


月といえばまさに中秋節

中秋節は中華圏において五大節句のうちの一つである

*五大節句=「春節(含元宵節)」「清明節」「端午節」「中秋節」「重陽節」


台湾で中秋節は国民の休日に値し 今年も4連休になっている

一般的な風習としては 月餅や文旦を食べたり 文旦の皮を帽子に見立てて子供に被せるとか BBQをするなんていうのも今や鉄板行事だ

わたしも台湾に住んでから中秋節になると BBQ以外のことはなんだかんだ毎年やっている


日本人にとって休日でもない中秋は季節のうちの一つで 月見バーガーの季節かぁくらいだったりするんじゃないだろうか

すっかり陽暦になった日本で陰暦のそれを重んじる風習は伝統的なものを除けば 日常生活に与える影響はさほど大きくはない


しかし わたしにとっては唯一幼い頃から馴染みのあった陰暦がこの中秋だった

なぜかというと わたしの地元の小さな神社のお祭りが陰暦のため毎年日にちが変わる中秋だったのだ

毎年中秋になると居間の窓際 月がよく見える場所に綺麗に積まれた団子が供えられていた 

子供のわたしにとってそれは正直どうってことのないもので 普段はお小遣いなんてないのにその日は特別 10枚ほどの100円玉を握りしめて繰り出す あの夜の高揚感がなによりも重要だった

子供が夜に出歩いていいのは年に数回 貴重なこの日の非日常感はたまらない

ただ その夜の月は確かに美しかった


わたしが育った田舎のその神社は地域に見合った小さなものだった

子供のわたしたちにとっては広いとも狭いとも思わない ただ夏休みのラジオ体操や放課後集まるには十分だったし 神様の横で思い切りバットを振りかざす草野球も 社の階段で神様に背を向けてするゲームも 境内めいいっぱい使った缶蹴りなんかも いくら好き勝手にしたってそれを叱る大人もいなかったし 「バチ」が当たったなんてこともなかった

いつも身近な場所だった神社 祭りの日はその小さい境内にも4,5店ほどの出店があった 型抜き、お面、綿あめ、べっこう飴、ホットドッグなんかが毎年の定番

10枚のコインを使い果たすのに時間はかからない

そうなると一旦家に戻り 自分の貯金箱を開ける お年玉とかお手伝いの報酬とか 貯めておいたものからいくらか取り出す 全部使うのはいつかの自分が困るから申し訳程度残して再び夜に出かける 

お金と時間の使い方や価値観みたいなものも この日に学ぶところはあっただろう


先日ふと なぜうちの祭りが中秋なのか気になって家族に聞いてみたが有力な情報は得られなかった

祀っている神様に関係することは明らかなのだが 神社に祀られる神様は「天照大御神」太陽の神である

月の神である月読命(月夜見尊)は天照大御神の弟とされている

*この先詳しいことはわからないので以降触れないこととするが もしも詳しい方がいたら教えていただきたい


子供の頃から特別だったこの日 今は台湾で楽しむ中秋節

確かに美しい中秋のお月様

しかし中秋の名月は必ずしも満月ではないと知ったのはつい最近のことである

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