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#042 けつめいし

「けつめいし」という名前を聞いて思い浮かべる表記は漢字かカタカナか つまりそれは生薬か はたまた日本の有名なアーティストか という疑問である

我が家のダイニングテーブルにはひめくりカレンダーが置いてある これは毎日違う漢方食材のイラストや効能などが書かれたもので デザインが可愛いのでかなり気に入っている

ただ残念なことにこれを意識しているのはわたしだけで 夫や娘の目にはあまり留まらないようだ

ところが先日夫が突然このカレンダーについて触れてきた 「この間さ 決明子じゃなかった?」と言ってきたのだ
「ああそうだったね」 と軽く返事をすると「それってあのケツメイシ!?」とさらに聞かれた
夫が聞きたいことはあの有名なアーティストのことだとすぐにわかったので 「そうだよ 彼らの詳しい由来は忘れたけど」 というと 意外にも夫はその関係性が気になったらしく スマホで検索を始めた
ネット上に書かれている内容を読み上げると 彼らのグループ名が本来の決明子の効能などを受けて名付けられたことがわかり 「クールだね!ちょっと下品な感じなのにかっこいい!」と言う
そしてそのままケツメイシの曲をかけ始めた (下品な感じとは?笑 彼がいうには「全部出し切る」というワードがそう思わせるらしい)

イントロだけで何かわかる曲はいくつあるだろう 青春時代から彼らの曲はかなり聴いている

日本で行った我々の披露宴の際にも彼らの曲を使わせていただいた

夫のスマホから流れる彼らの曲は2曲目に突入した
イントロを聴いてタイトルが喉まで来ているのにそこから出て来なくて 思わず「これなんだっけ?すごく懐かしい気がするんだけど」 と夫に問いかけると 「東京」と返ってくる それが漢字表記であることは見なくてもわかる

なんで忘れていたんだろう すごく好きな曲だったのに
メロディーはもちろん 歌詞がいい 特に好きな部分は以下

ーーー
この都会 すごく冷たくて早い
周りから見ると 触れたくて甘い
ーーー

まさにこれが東京 これがエモい と少々感情が昂り気味になって言いかけたところで思い出す 

夫は東京育ちだ  わからないかこの感じは 

昂りかけた自分の感情を一気にさますように冷静に小さく呟くと 彼はもう自分が抱いていた疑問が晴れて満足したらしく サラリとその場の空気は流れていった

取り残された田舎育ちのわたしのこの「東京」に馳せる思い


一体どのくらいの人たちが「東京」を夢見て故郷を後にしたことだろう

そして東京という街がそのように扱われることを東京に生まれ育った人々はどう感じているのだろう

ーー東京の街に住んで一人で切なくなったーー なんて経験はないのではないか

ただ寂しいという経験のことではない 故郷に残る誰かを思い浮かべて寂しい気持ちになるあの感情のことだ 帰りたいような今すぐその顔が見たいような でも帰れず 帰らないと決めて強くこの東京の街で力一杯踏ん張るあの感情のことだ

東京に生まれ育った人が違う街で似たような経験をすることはあるだろう もちろん東京の人に限らず 故郷を離れ違う街で頑張る人は皆そういった感情を持つことがあるのだろうと思う でもどうしてかその感情の全てをこの「東京」という一言で表現しきることができるのである これが「東京」という街なのである


おや 話が随分とそれている 懐かしいという感情はしばし人を迷子にさせる この台北という街で暮らして数年 かつて憧れの街であった「東京」はいつの間にか故郷のようになっている 「東京」に暮らす友人たちを思ってたびたび寂しくなるのである そこにかつての自分の姿も思い浮かべながら

後悔とは違うけれども 自分はあの「東京」の街で まだすべてを出し切ってはいなかったのではないか まだまだやれることがあったのではないか 離れてから数年 なおもそう感じさせる「東京」は今もたくさんの人を魅了し続けている


ちなみに生薬としての決明子は日本ではあまり馴染みがないかもしれないが 漢方治療も一般的な中華圏では 漢方薬の成分として認知されている

「全てを出し切る」というワードからも連想される通り 便秘に効くというのが広く知られているが 目にもいいらしく かの白居易という詩人も目の治療に決明子を服用していたそうだ

日本ではハブ茶に決明子が用いられることも多いのでその効能を試してみたい方は ハブ茶を飲んでみるのが一番手軽な方法かもしれない


おなかや目をスッキリさせたいなら生薬を

心をスッキリさせたいなら彼らの音楽を

さて 今のあなたに必要なのはどちらの「けつめいし」だろうか



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