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大壹神楽闇夜 1章 倭 4灯りの消えた日4

 咸陽を出発して三日…。五人は西南に到着していた。咸陽と違い西南は華やかである。民衆は生き生きとし乞食なんて者はいない。しっかりと税や朝貢をさせているだけあって町は非常に豊かで綺麗である。五人は取り敢えず指定された宿屋に向かった。
「此処が西南じゃか…。」
 甘辛く焼いた串焼き肉を食べながら油芽果(ゆめか)が言った。
「咸陽とは大違いじゃか。」
 鶏の腹に米を入れて蒸した料理を食べながら薙刀(なぎな)が言う。
「確かに、此処は楽園だな…。って言うか…。其れはどうしたんだ ?」
 二人が食べている物を見やり呂范(ろはん)が問うた。
「盗んだ。」
 油芽果(ゆめか)と薙刀(なぎな)が答えた。三子(みこ)の娘は盗む事を悪とは思っていない。盗むと言う行為は寧ろ正義なのだ。
「我も腹が減ったなぁ…。」
 東段(とうだん)が羨ましそうに見やると油芽果(ゆめか)がヒョイッと盗んだ蒸し鶏を東段(とうだん)にあげた。
「くれるのか ?」
「三日も飲まず食わずの旅じゃったからのぅ。」
 と、油芽果(ゆめか)は言うが飲まず食わずの旅では無い。仮にも秦王政の勅令での任務なのだ。充分な施しがあるは当然である。ただ、初日に贅沢をしてしまった為に最終日の今日には全て食料が尽きてしまっていただけの事である。まぁ、昼過ぎには西南に到着したので問題が無かったと言えばそうなのだが、いかせん油芽果(ゆめか)と薙刀(なぎな)は贅沢に慣れてしまっている。
「お前達…。此処は咸陽では無いぞ。盗むのは止めろ。」
 其れを見ていた呂范(ろはん)が嗜める。
「硬い事を言うでない。」
 と、薙刀(なぎな)が呂范(ろはん)に肉の串焼きを渡した。呂范(ろはん)は偉そうな事を言いながらも其れを貰うとパクリと食べる。
「貞相(さだそう)も食べると良い。」
 と、薙刀(なぎな)は肉の串焼きを貞相(さだそう)にあげた。と、五人は”西南盗んで食べ歩紀”を満喫し乍初めて見る風景を楽しんでいた。
 色とりどりに着色された建物に綺麗な水が流れる水路。見事に咲き誇る木々に美しい花。行きかう人は肉付き良く実に楽しそうである。
「見事じゃぁぁ…。呂范(ろはん)はしょっちゅう此処に来ておるかじゃか。」
 百%お登りさんとなった油芽果(ゆめか)が言う。
「来てはいるが町中を歩くのは初めてだ。」
「西南に来て町を歩かぬか。」
 驚いた様に薙刀(なぎな)が言った。
「我等は別の道を歩いて城に行くからな…。」
「じゃかぁ…。」
 と、五人は綺麗に舗装された道をドンドコ進む。場所によっては石畳に変わり、川の水を利用して作られた人口の滝が優美さを象徴し、紅色に着色された橋が艶やかに町を引き立たせている。此の風景を見ていると咸陽での事が嘘の様に思えて来る。全ての民が此処に来れば飢える事は無いのではないかと思う。
 だが、全ての民が西南に来るは夢物語である。何故なら支払う税がべらぼうに高いからだ。だから、誰かれ構わず此処に住む事は難しい。其れに、西南には基本的に民家は無い。否、言い方が悪い。民家はある。だが其れは倭人が住む家であり、倭族以外の者が住む民家は皆無なのである。つまり、倭族以外の者は商家に住んでいるのだ。俗に言うマルチハウスである。店と家が一体式になっているのである。此れは店と家を別に持てば税金が上がると言う事に加え、無駄に人が流入して来るのを防ぐ為である。簡単に言えば西南で商いをするから西南に住む事が出来るのである。
 なら、商いをすれば住めるのか ? 
 勿論、そんな甘い話は無い。
 才覚のない者は誰にも相手にされず、敗者として去って行くのである。
 だが、そのお陰で大盛況である。町は人で溢れ、魚業者や肉業者、野菜業者が忙しなく西南にやって来る。西南には漁港も農家農園百姓一揆なんて物がないのだ。つまり、話を簡素にすると、町がイオンなのである。と、町を堪能し乍歩く事暫し…。五人は指定された宿屋に到着した。
 中に入り名前を告げると既に”奥様がお一人先に到着されてますよ”と、女中が言ったのでとても不思議な感じだったが五人は流れのまま其れに合わせた。
 五人はそのまま玄関を上がり中に進むと主人が大慌てでやって来て”お客さん ! 靴を脱いで下さいよ”と、言って来た。
「靴 ?」
 と、五人は首を傾げる。
「そうです。靴は玄関で脱いで下さい。」
「盗むつもりじゃか。」
 油芽果(ゆめか)が問う。
「真逆…。」
「なら、何故脱ぐ ?」
「此処は西南。靴を脱いで上がるのが普通ですよ。」
 と、主人が言うので油芽果(ゆめか)は呂范(ろはん)を見やった。
「アイヤァ…。申し訳ない。妻は田舎者でして。」
 と、主人に呂范(ろはん)が言ったのだが、呂范(ろはん)もしっかり土足で上がっている。
「あ、あぁぁぁ…。そうですか。田舎から来られたのなら仕方ありません。さぁ、どうぞこちらで靴を脱いで下さい。」
 と、苦笑いを浮かべ主人が言った。油芽果(ゆめか)は田舎者と言われたので不機嫌である。ブツブツと言いながら靴を脱ぎ終わると女中の案内が再開した。
「誰が田舎者じゃか。」
 と、油芽果(ゆめか)はブツブツ。
「じゃよ…。知っておるなら先に言うべきじゃぞ。」
 薙刀(なぎな)が言う。
「何を言うておる。呂范(ろはん)も土足で上がっておったじゃかよ。」
「なんと ! 呂范(ろはん)も田舎者じゃか。」
「じゃよ。まったく…。どえらい恥をかいてしまいよった。」
 と、油芽果(ゆめか)と薙刀(なぎな)が話している間に一行は部屋に着いた。女中は軽く戸を叩いた後カラリと戸を開ける。五人が中に入ると其処には李禹がいた。
「李禹(りう)ではないか。」
 油芽果(ゆめか)が言う。
「やっと来たか。」
「町を見ておったんじゃ。」
 薙刀(なぎな)が言う。
「だと、思うておった。」
「初めて来たからのぅ…。」
 と、油芽果(ゆめか)達は中に入り腰を下ろすと女中が戸を閉めた。其れを見やり李禹(りう)が台に木簡(もくかん)を広げた。
 五人は台を囲んで座る。其の部屋は広く中は板間である。囲炉裏があり部屋をほんのり温めているのが心地よい。五人は靴を脱いで上がる事に抵抗を示したが其れは異国だからである。八重国(やえこく)にいれば履き物を脱いで上がる事は常識である。
「さて、早速で悪いんだが此れを見て欲しい。」
 広げた木簡を見やり李禹(りう)が言った。
「此れは…。西南の地図か。」
 貞相(さだそう)が言う。
「そうだ。そして我々がいるのは此処だ。」
 と、地図の一番端を指差し言う。
「一番端じゃかよ。」
「そうだ。此処から中に入ると倭人が住んでいる場所に入る。更に奥に進むと又店が立ち並ぶ場所に行き…。更に進んだ場所に倭人の都がある。」
 と、李禹(りう)が言った。
「ほぉ…。都はまだまだ先じゃか。」
 薙刀(なぎな)が問う。
「そうだ。だから此の町には倭人もいれば他の民もいる。」
 と、李禹(りう)は外側に位置する町を示す。
「我もおるぞ。」
 油芽果(ゆめか)が言う。
「そう…。油芽果(ゆめか)も皆いる。」
「しかしヘンテコじゃな。町があって都があって町があって都があるじゃか。」
 と、薙刀(なぎな)は首を傾げる。薙刀(なぎな)だけで無く他の者達も此の変わった作りに首を傾げるので李禹(りう)は少し説明する事にした。
 此の倭人の住む西南は元々中心部にある都が西南と呼ばれる場所であった。勿論倭人は働かないので都には様々な店が建ち並び其の店を倭人が利用していたのだが、其の噂を聞きつけた世界の商人達がこぞって西南にやって来たのだ。だが、都の中に店を作るにしても限界がありやがて都の周りに店が乱立する様になったのだ。そして、長い年月と共に倭人の数が増えて行くに連れ今度は都が狭くなって来た。拡張しようにも既に周りは多くの店が建ち並んでいる。と、言って店を破壊する訳にもいかない。だから、その外側に新たな都を建設したのだそうだ。
 そして、倭人の数が増えた事により更に店が建ち並び新たな都を囲む様に新たな町が出来たのだそうだ。
「じゃから、都を囲む様に町があって其の町を囲む様に都があって更に其の都を囲む様に町があるじゃか…。其れで此の一本道はなんじゃ ?」
 薙刀(なぎな)が問う。
「其れは王の道だ。」
 呂范(ろはん)が言う。
「田舎者は話さんで良い。」
 油芽果(ゆめか)が言った。油芽果(ゆめか)はまだ根に持っている。
「呂范(ろはん)の言う通り、此の道は王の道だ。今なら始皇帝専用の道だな。」
「つまり、此の道を通れば都迄直ぐじゃか。」
 薙刀(なぎな)が言った。
「否、此の道は王しか通れない。」
 呂范(ろはん)が言う。
「其れに態々此の道を通らなくとも都には行ける。」
「そうなんじゃか ?」
「あぁぁ…。誰でも行ける。」
「じゃかぁ…。」
「其れで我々の仕事はなんだ ?」
 東段(とうだん)が問う。
「勿論、帥升(すいしょう)第一宗女、第二宗女、大将軍の暗殺。の、失敗だ。先ずは都の中心部に行き宝樹城に潜入して貰う。」
「夜中に忍びこんでグサリじゃな…。」
 油芽果(ゆめか)が言う。
「成功したら駄目だ。」
 李禹(りう)が答える。
「そうじゃった。」
「其れにコッソリは駄目だ。出来るだけ目立つ様に行って欲しい。」
「其れは得意じゃ。」
 薙刀(なぎな)が言う。
「其処で先ずは油芽果(ゆめか)と薙刀(なぎな)には侍女として潜りこんで貰いたい。」
 李禹(りう)が言った。丁度新しい侍女を募集しているとの事なのだ。
「侍女じゃか…。」
「そうだ。だが、一つ問題がある。」
「問題 ?」
「強くないと駄目なんだ。」
「強い…。其れなら問題無い。」
 と、油芽果(ゆめか)と薙刀(なぎな)は拳を握りしめた。
 そして気がつば宝樹城の大広場。帥升は高い場所から椅子に座り見やっている。其の右横には既に有名な蘭泓穎(らんおうえい)左横には第二宗女の蘭樹師維(らんうーしぃ)其の横に第三宗女の蘭蒼呵(らんそうか)泓穎(おうえい)の横には第四宗女の蘭玖卯掄(らんくうりん)が腰を下ろしている。そして油芽果(ゆめか)の前には対戦者である侍女、名を花螺無姫(からむじ)彼女は侍女の纏め役でもある。その花螺無姫(からむじ)が油芽果(ゆめか)を睨め付けていた。
「なんだあの女は…。男みたいだぞ。」
 観客席で見ている東段(とうだん)が言った。
「あぁぁ…。凄い筋肉だ。」
 呂范(ろはん)が言う。
「北の遊牧民だ…。あそこの女は武闘派が多いんだ。」
 李禹(りう)が言った。
「流石に不味い状況だぞ。」
 と、貞相(さだそう)は気が気で無い。何せ花螺無姫(からむじ)は筋肉ギッシリ格闘系、対する油芽果(ゆめか)はポッチャリプニプニオデブさん。まぁ、オデブは言い過ぎだがムッチリ娘の文学部である。
 花螺無姫(からむじ)はグッと拳を握り開始の合図を待っている。
「そのだらしない体で戦うのか ?」
 花螺無姫(からむじ)が問う。
「其れで女のつもりじゃか ?」
「男を誘惑したいなら娼館に行くと良い。紹介してやるぞ。」
「あ、あぁぁぁぁ…。面接で落とされたんじゃな。分かりよる。」
 と、油芽果(ゆめか)はクスクスと笑う。花螺無姫(からむじ)は更に拳を握りしめ油芽果(ゆめか)を見やる。

 そして…。
 鐘が鳴った。
 花螺無姫(からむじ)は鐘が鳴ると同時に猛ダッシュで近づき右パンチを出す。油芽果(ゆめか)はポッチャリな体をくねっと動かして其れを避ける。だが、花螺無姫(からむじ)は続けて右、左とパンチの連打を繰り出す。油芽果(ゆめか)は其れを避けるがパンチが空を引き裂く破壊的な音が耳に伝わる。前進し乍繰り出す早いパンチを後退し乍避ける。が、後退し過ぎると場外である。
「油芽果(ゆめか)…。場外に出てしまうぞ。」
 見ている李禹(りう)は必死に油芽果(ゆめか)を応援するが、油芽果(ゆめか)は既に崖っぷちである。と、油芽果(ゆめか)はパンチを避けながら前転して中に戻った。
「すばしっこいデブだな。」
 花螺無姫(からむじ)が言う。
「其方がノロマなだけじゃ。」
 と、油芽果(ゆめか)が言うと今度はパンチだけで無く花螺無姫(からむじ)はキックも攻撃に追加してきた。流石に此れは避け続ける事は無理である。だが、花螺無姫(からむじ)の力は強く。腕でパンチを受け止めても体が飛ばされる。其処にキックが入ると流石にモロに食らってしまう。そして、花螺無姫(からむじ)の連撃が入ると油芽果(ゆめか)はゴロンと倒れてしまった。
「フン…。豚が来る場所を間違えるからだ。」
 と、花螺無姫(からむじ)は両腕を高らかと上げた。観衆が花螺無姫(からむじ)を称える。
「ま、負けてしまいよった…。」
 李禹(りう)が言った。
「まだじゃ…。」
 薙刀(なぎな)が言う。
「でも、たおれ…。」
 と、李禹(りう)が油芽果(ゆめか)を見やると油芽果(ゆめか)はのっそりと立ち上がっていた。
「まったく…。痛いじゃか。」
 と、油芽果(ゆめか)は花螺無姫(からむじ)を睨め付ける。そして、右腕、右足を前に構え、爪先で立ちスッと体の力を抜いた。此れは岐頭術の基本的な構えである。
「ほぉ…。其れは豚拳か何かか ?」
 と、花螺無姫(からむじ)が大きな声で言うと皆がゲラゲラと笑った。
「フン…。花木蘭のつもりじゃか ? 詰まらぬ伝説はデズニーだけで十分じゃかよ。」
 と、油芽果(ゆめか)は軽いステップで花螺無姫(からむじ)に近づく。花螺無姫(からむじ)は其処にパンチを入れるがフッと油芽果(ゆめか)の姿が消えた。油芽果(ゆめか)が花螺無姫(からむじ)の死角に移動したのだ。
 そして…。
 油芽果(ゆめか)の蹴りが花螺無姫(からむじ)の左側頭部に綺麗に入る。花螺無姫(からむじ)はその衝撃に態勢を崩すと、其処に油芽果(ゆめか)の左掌底が花螺無姫(からむじ)の顎に入り花螺無姫(からむじ)はパタリと倒れた。今度は油芽果(ゆめか)が両腕を上げ雄叫びを上げる。此の一瞬の逆転劇に観客は歓喜である。
「勝った ! 油芽果(ゆめか)が勝ったぁぁ !」
 と、李禹(りう)も大喜びである。
「これこれ…。喜ぶのは未だ早いじゃかよ。」
 と、薙刀(なぎな)が言う。其の通り花螺無姫(からむじ)は未だ負けていない。のっそりと立ち上がり油芽果(ゆめか)を見やる。
「やるじゃない…。」
 花螺無姫(からむじ)が言った。
「豚拳を甘く見るからじゃ。」
「ほぉ…。なら今度は我が部族の技を見せてやる。」
「部族の技 ?」
「その名も筋肉拳。」
 と、花螺無姫(からむじ)は必殺の構えを取る。油芽果(ゆめか)は岐頭術(きとうじゅつ)の構えを取り暫し睨め付けあった。
「此処からが本番じゃ。」
 薙刀(なぎな)が言った。
「わ、分かった。」
「此の先は閲覧注意じゃ…。」
 と、薙刀(なぎな)が言うや否や花螺無姫(からむじ)が先に攻撃を仕掛けた。花螺無姫(からむじ)の繰り出す攻撃を避け油芽果(ゆめか)は掌底や蹴りを入れる。だが、花螺無姫(からむじ)も強い。早々に油芽果(ゆめか)の攻撃が決まらない。だが、ポッチャリであっても油芽果(ゆめか)は別子(べつこ)の三子(みこ)である。花螺無姫(からむじ)の筋肉拳に一本も引かずに食らいついていく。
 そして、其の攻防に観客は釘付けである。岐頭術(きとうじゅつ)は舞に始まり舞に終わる技である。其の動きは美しく艶やかであり、観るものを魅了する魔力がある。戦っているのか舞を舞っているのか分からなくなる程に其の動きは魅力的なのだ。
 だが、其れもやがては唯の殴り合い蹴り合いに変わって行く。二人はほぼ其の場所で殴り合い蹴り合い引っ掻き合いの醜い喧嘩が始まり、観客はヤイノヤイノの大興奮。みるみる内に顔面は腫れ上がり服ははだけて乳ポロリ。
 其れでも油芽果(ゆめか)はグーパンでは殴らない。此れは相手を思っての事では無い。そもそも岐頭術(きとうじゅつ)にはグーパンで殴る技が無いからである。理由は指の骨を折ってしまうから…。と、言うのもあるが、其の真は気の流れを止めてしまうと考えられているからである。
 気は体の中心に作られ、体全体に流れている。其の流れは体を通し外に発する事が出来る。と、娘達は教えられている。だから力を出すのに筋肉は必要ないのである。その気は強く、触れただけで相手を飛ばす事が出来るのだ。が、勿論油芽果(ゆめか)には其処までの事は出来ない。
 だが、筋肉拳が繰り出すパンチにも引けを取らない掌底が花螺無姫(からむじ)の体を唸らせる。油芽果(ゆめか)から発せられる気はやがて花螺無姫(からむじ)の体に蓄積していき花螺無姫(からむじ)の意識をプッツリと途絶えさせた。
 パタリと花螺無姫(からむじ)が倒れると審判が十カウントを取る。油芽果(ゆめか)はパンパンに腫れ上がった顔でニンマリと笑みを浮かべ雄叫びを上げた。
「勝者…。油芽果(ゆめか)。」
 と、審判が油芽果(ゆめか)の腕を上げる。李禹(りう)は薙刀(なぎな)を抱きしめて歓喜した。観客も拍手で其れを称えたのである。
「変わった技だな…。」 
 其れを見やっていた蘭泓穎(らんおうえい)がボソリ。
「姉様は好きね。」
 蘭玖卯掄(らんくうりん) が言う。
「相手の技を受け流してこう…。」
「もぅ…。姉様は男に産まれるべきだったわね。」
 と、蘭玖卯掄(らんくうりん) は蘭泓穎(らんおうえい)にべったりニャンゴロリン。蘭玖卯掄(らんくうりん) は泓穎(おうえい)の事が大好きなのである。
「良し…。後で大将軍と練習だな。」
「泓穎(おうえい)…。もう少し女子らしくしてはどうか ?」
 帥升が言った。
「しております。」
 シュンと口を尖らせ蘭泓穎(らんおうえい)が言う。
「まったく…。だから其方には娘しかよって来ぬ。」
「そ、そんな事はありませぬ。」
「嘘よ。娘は皆んな姉様の事が好きなんだから…。」
「迷惑な…。妾は男子が好きだぞ。」
 と、蘭泓穎(らんおうえい)は油芽果(ゆめか)を見やる。
 蘭泓穎(らんおうえい)が受け流しの技を知ったのはこの時であり、高天原で使った技は油芽果(ゆめか)から習ったものである。

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