見出し画像

【試し読み】『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』PART2

ペンシルベニア大学ウォートン校の人気教授が語る人を動かす伝え方の極意とは? 最新科学に基づく“人の心を変える新しいメソッド”を解説するベストセラー『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』(ジョーナ・バーガー/著  桜田直美/訳)がついに日本上陸! 
2021年3月16日に発売する本書の試し読みを3回に分けてお届けします。

★試し読みPART1はこちら

伝え方の技術カバー帯つき-03


人の心を変える新しいメソッド

私がカタリストの研究を始めたのは、自分自身が行きづまっていたからだ。
当時の私は、あるフォーチュン500企業からアドバイスを求められていた。その会社は革新的な新製品を発表したのだが、従来のやり方がどれも通用せず途方に暮れていた。 広告や宣伝など一般的な戦略はすべて試したが、まったく成果が上がらなかった。
そこで私は、この分野の文献を読みあさった。

私の本職は、ペンシルベニア大学ウォートン校の教授だ。20年以上にわたり、社会的影 響、口コミ、人気が出るしくみなどを科学的に研究している。優秀な同僚たちとともにこれまで数百もの実験を行い、人々がものを買う理由から、意思決定や選択の動機まで、さまざまなことを調べてきた。
数万人の学生やエグゼクティブに教える喜びにも恵まれ、さらにアップル、グーグル、 ナイキ、GE(ゼネラル・エレクトリック)で変化を起こす手助けもしてきた。フェイスブックの新しいハードウェアの発表や、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のメッセージ戦略にも関わっている。小さなスタートアップ、政治キャンペーン、NGOとも共に働き、効果的なコミュニケーション方法の助言を与えてきた。
しかし、関連する文献を読めば読むほど、従来のやり方の問題が浮き彫りになってくる。
誰かを思い通りに動かしたいときは、おだててその気にさせる、説得する、背中を押すといった方法が一般的だ。つまり、押して、押して、押しまくる。もしそれでうまくいかなかったら、また最初から同じことのくり返しだ。今度はアクセルをさらに強く踏み込む。
しかし、これでは思い通りの結果になってくれない。


そこで私は考えた。もしかしたら、もっといい方法があるのではないだろうか?
スタートアップの創業者に話を聞き、新製品や新サービスを売り出すときのやり方を教えてもらった。企業のCEOやマネジャーにも話を聞き、偉大なリーダーはどのように組織を変革するのか探り出した。トップセールスパーソンからは、難攻不落の顧客を落とす方法を教えてもらった。そして公衆衛生の専門家からは、国民の意識と行動を変える方法や、医学的に重要な発見を国民に広める方法を学んだ。
そうやって話を聞くうちに、今までとは違う方法がだんだんと見えてきた。 人の心を変える新しいメソッドだ。

その新メソッドの簡易版をまとめ、クライアントに試してもらったところ、わずかながら手応えが感じられた。そこでさらに改良を加えたところ、手応えはさらに大きくなっ た。最初の成功に勇気づけられた私たちは、別のクライアントにも試してもらった。そこでの結果もかなり好評だった。
間もなく私たちは、コンサルティングの仕事でつねにこの新メソッドを活用するようになった。新製品の売り出し人々の態度を変える組織の文化を変えるといったプロジェク トで、大きな効果を発揮することがわかってきた。
ある日、ある見込み顧客から、この新メソッドのマニュアルはないのかと尋ねられた。 文書やレポートの形でまとめてあるのであれば、ぜひ読みたいと言うのだ。
そこで私は、自分でつくったパワーポイントのスライドを集めたりしたのだが、それだけでは不十分だと気がついた。必要な情報をすべてまとめ、読みやすい形にしたものが必要だ。そうやってできあがったのが、この本だ。

変化を妨げる原因を見つける

この本は、人の心に変化を起こすまったく新しい方法を提唱している。
残念ながら変化を起こそうとするときに、障害物を取り除くという方向で考える人はめったにいない。誰かの考えを変えるにはどうするかと尋ねられたら、 パーセントの人 は「押す」方法のどれかを答えるだろう。たとえば、「事実と証拠を提示する」「こちらの理由を説明する」「説得する」といった方法だ。
自分の思い通りの結果にすることで頭がいっぱいになっているので、とにかく相手を押しまくろうとする。そしてその過程で、相手の気持ちを考えることを忘れてしまうのだ。
相手はなぜ、こちらの思い通りに動いてくれないのだろう?
何が相手の変化を妨げているのだろうか? 変化の触媒、カタリストになりたいのであれば、「この人はなぜまだ変わっていないのだろう?」という、根本的な問いから始めなければならない。
彼らの変化を阻む障害物は何なのか?
慣性の法則に従い、ただ今までと同じことをくり返している人にストップをかける方法はあるのか。どうすれば彼らに行動を促し、彼らの考えを変えることができるのか。 答えはすべて、この本に書かれている
車の運転をするときを思い出してみよう。運転席に座り、シートベルトを締め、キーをさしてエンジンを始動し、ゆっくりとアクセルを踏む。上り坂であれば、いつもより強くアクセルを踏む必要があるかもしれない。ともあれ一般的にはアクセルを強く踏むほど、 走り出しの力は大きくなる。
だがどんなにアクセルを踏んでも、車がまったく動かなかったら?
そんなときは、いったいどうすればいいのだろう?
望んだ変化が起こらないとき、私たちは得てして「押す力が足りなかったからだ」と考える。従業員が新方針に従ってくれない? それならもう一度メールを送って新方針を周知徹底しよう。顧客が製品を買ってくれない? それなら広告にもっとお金をかけるか、 あるいは営業の電話を増やせばいい。
しかし、そうやってアクセルを強く踏むことばかり考えていると、他の方法を見落としてしまうかもしれない。実際のところ、変化の妨げになっているものを見つけ、それを取 り除くほうが、アクセルを踏むよりもずっと簡単で効率的だ。
変化に必要なのは、アクセルを強く踏むことではないかもしれない。時には、ただサイドブレーキを解除するだけで、車が動き出すこともある。
この本の内容を一言で表現するなら、「サイドブレーキを見つける方法」となるだろう。 サイドブレーキとは、変化を妨げている隠された原因のことだ。行動を阻止している障害を特定しそれを除去する方法を考える。 この本は、心の変化を妨げる主な障害を5つ特定し、1章につき1つずつ考えていくという構成になっている。

第1章 心理的リアクタンス
「心理的リアクタンス」とは心理学の用語で、「何かを選択する自由が外部から脅かされたときに生じる、自由を取り戻そうとする反発作用」という意味だ。
人間は押されたら本能的に押し返す。ミサイル防衛システムと同じように、こちらに向かって飛んでくるミサイルを検知したら、自動的に反撃に出る。人間には、自分を説得しようとする力に反発するようなシステムが生まれながらに備わっている。
このシステムの作動を阻止するのがカタリストの役割だ。こちらが相手を説得するのではなく、相手が自分で自分を説得するように持っていく
この章で学ぶのは、心理的リアクタンスの科学、警告が推薦に変化するしくみ、そして戦術的な共感の力だ。未成年の喫煙を大幅に減少させた行政のキャンペーンや、凶悪犯をおとなしく投降させた凄腕の人質交渉人のテクニックなどの具体例も紹介している。

第2章 保有効果
「保有効果」とは、すでに持っているものを手放したくないという態度のことだ。昔からいわれているように、人間には「壊れていないなら直す必要はない」と考える傾向がある。 人間は、すでにしていることをくり返すようにできている。すでにしていることがそこまでひどくないなら、あえて変えようとは思わない。現状に執着する「保有効果」の壁を破るには、行動を起こさないことのリスクを相手に気づかせるというテクニックを用いる。 この章では、あるものを売買するときに、売り手のほうが買い手よりもそのあるものを高く評価するという現象や、人を動かすときは、動くことの利点が動かないことのマイナス点よりも2・6倍大きくなければならないということ、指の捻挫は指の骨折よりも痛み が大きい理由などを学ぶ。さらに、ファイナンシャル・アドバイザーが顧客に賢い投資を 促す方法や、新しいシステムに早く慣れさせるIT技術者のテクニックなども紹介する。

第3章 心理的距離
人間には説得されると本能的に反発するシステムが備わっている。説得までいかなくても、ただ単に情報を提供しただけで拒否反応を引き起こすこともある。
その理由は、「心理的距離」という障害が存在するからだ。
たとえ新しい情報でも、自分の理解できる範囲のことであれば、人は耳を貸そうという気になる。しかしあまりに自分の理解を超えていると、最初から拒否反応が出て聞く耳を持たない。どんなに言葉を尽くして説明してもまったく伝わらない。それどころか、悪くするとますます反発を招くことになる。
この章では、無党派層の支持を取りつける方法や、LGBTの権利といったリベラルな政策を保守派に売り込む政治運動のテクニックなどを学ぶ。また、小さなお願いが大きな変化につながるメカニズム不可能としか思えない説得を成功させる秘訣なども見ていこう。

第4章 不確実性
変化は往々にして「不確実性」につながる。新製品、新サービス、新しいアイデアは、 古いものと同じくらいいいものなのだろうか?その答えは誰にもわからない。そして人は、不確実性を前にすると、本能的に一時停止ボタンを押して行動を止めてしまう。
この障害を乗り越えるには、挑戦しやすい環境を整えるというテクニックが有効だ。
たとえばいきなり買ってもらうのではなく、スーパーなどで無料のサンプルを配ったりする。車を買うときにディーラーで試乗できるのも、このテクニックの1つだ。まずは体験させて、新しいものへの心理的ハードルを下げてもらう。 この章では、簡単に返品できるシステムにするとかえって売上げが伸びるしくみや、マイナーリーグでチケットを売っていた人が送料無料の通販を始めて莫大な利益を上げた物語などを学ぶ。また失敗例として、農家が実際に役に立つ新技術を取り入れることができなかった話も見ていこう。動物シェルター、会計士、ベジタリアン、組織変革プロジェクトなどで、このテクニックは広く活用されている。

第5章 補強証拠
時にはたった1人の言葉だけでは納得できないことがある。その人がどんなに知識があっても、自信満々でも関係ない。ある種の事柄においては、より多くの証拠がなければ 人の考えを変えられないということだ。
誰か1人が好きだと言っているからといって、それを自分が好きになる保証はどこにもない。この障害を乗り越えるには、エビデンスをさらに補強するというテクニックが有効だ。たとえばドラッグやアルコールの依存症患者のカウンセラーは、このテクニックを活用して、患者がきちんと治療を受けるように説得している。
さらにこの章では、もっとも影響力のある証拠は何か、少ないリソースを分散させるよりも、凝縮したほうがいいということも学ぶことができる。

以上にあげた、心理的リアクタンス、保有効果、心理的距離、不確実性、補強証拠の不 足は、「慣性の五騎士」と呼ぶこともできるだろう。変化を妨げるもっとも大きな5つの障害だ。
この本では、これら5つの障害を1章につき1つずつ取り上げている。障害の正体を詳しく検証し、さらに障害を乗り越える方法を提示する。総合的な研究とケーススタディか ら、それぞれの障害の背後にあるものと、障害を軽減する方法を科学的に読み解いていく。 「心理的リアクタンス(Reactance)」「保有効果(Endowment)」「心理的距離(Distance)」「不確実性(Uncertainty)」「補強証拠(Corroborating Evidence)」の頭文字をつなげる と、「減らす」という意味の「REDUCE」となる。

変化を起こす達人であるカタリストは、まさにこの「減らす」というテクニックを使っ ているのだ。相手をむりやり変えようとするのではなく、障害を減らすことで、変化を容易にする環境を整える。
各章の構成は、まず原則について解説し、それからその原則があてはまる短いケーススタディを紹介する。登場する事例は、上司の説得から、イギリスのEU離脱キャンペーン、顧客の行動を変えるマーケティング、それにグランド・ドラゴン(クー・クラックス・クランの幹部)のクー・クラックス・クラン脱退までと幅広い。

本書を読めば気づくと思うが、すべての事例で5つの障害が登場するわけではない。心理的リアクタンスが主な原因になっていることもあれば、不確実性が大きな役割を果たす こともある。いくつかの障害が組み合わさっている事例もあれば、1つの障害だけで説明 できる事例もある。しかし、5つの障害すべてを理解していれば、いちばん大きな原因になっている障害を探り当て、対策を立てることができるだろう。

この本の狙いはシンプルだ。「人の考えを変えるにはどうするか」という昔からある問題に、新しい視点から解決策を提示することを目指している。
この本を読めば、人や組織が変わるメカニズムを理解し、そしてその変化を起こすカタリストになる方法を学ぶことができるだろう。
人を変えるときでも、組織や社会を変えるときでも、カギとなるのは「障害を取り除く」というテクニックだ。本書を読めば、カタリストたちがあらゆる場面でこのテクニッ クを活用していることがよくわかるだろう。
リーダーが組織の文化を変えようとするときも、活動家が社会運動を起こそうとするときも、セールスパーソンが商談を成立させようとするときも、部下が上司に新しいアイデアを認めてもらおうとするときも、すべて変化を妨げる障害を取り除くことがカギとなっている。
ドラッグやアルコールの依存症患者に「自分には問題がある」と気づかせるのも、深く根づいた政治的信条を変えさせるのも同じことだ。

この本では、考えを変える方法と行動を変える方法の両方を見ていく。考えを変えれば行動も変わるケースもあれば、考えを変えなくても行動を変えることができるケースもある。または、相手はすでに行動を変える準備ができていて、私たちはただ障害を取り除いてやればいいというケースもあるだろう。
私はこの本を、変化を起こすカタリストになりたいすべての人のために書いた。
ここで紹介されている思考法と、さまざまなテクニックを活用すれば、すばらしい成果につなげることができるだろう。

1人の人間を変えたい人も、組織を変えたい人も、あるいは業界全体を変えたい人も、この本を読めば変化の触媒になる方法を知ることができるだろう。

=====================================
次回は1章の一部を紹介します。お楽しみに!

伝え方の技術カバー帯つき-03

【著者プロフィール】


ジョーナ・バーガー
ペンシルベニア大学ウォートン校マーケティング教授。国際的ベストセラー『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(東洋館出版社)の著者。行動変化、社会的影響、口コミ、製品やアイデア、態度が流行する理由を専門に研究する。一流学術誌に50本以上の論文を発表。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌などに寄稿した記事も人気を博している。
Apple、Google、NIKE、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などをクライアントに持つコンサルタントでもある。これまで数百の組織とともに働き、新製品の浸透、世論の形成、組織文化の変革などを実現してきた。『ファスト・カンパニー』誌の「ビジネス界でもっともクリエイティブな人々」に選出され、その仕事は『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』誌の「年間アイデア賞」で複数回取り上げられた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?