見出し画像

詩を読むことって、セルフケアかも。詩集を遠くから眺めてきたあなたへ贈る『心がそっと傾く』

詩集。
と聞くと、「あまり馴染みがないなあ」と思う人、少なくないかもしれません。

なんとなくオシャレな雰囲気。
でも難しそう。
読んで楽しいのかな?

そんなふうに詩集を遠くから眺めていた人、この本を手に取ってみませんか?

紡いだのは韓国の詩人、ナ・テジュ氏。
ナ・テジュ氏の作品は、俳優イ・ジョンソクなど韓国の著名人たちに愛読され、ドラマで引用されています。
本書もドラマ『ロマンスは別冊付録』で使用され、その効果もあってか現地で10万部も売れたのだそうです。

きっと、とても共感しやすい詩集なんだと思うでしょう。
ところがページを開いてみると、意外に簡単なものではありません。
言葉が難しいわけではなく、描かれている心象風景のひとつひとつが、どこか輪郭がぼやけているようで、全体をつかみにくいのです。

でも同じ詩を何度も咀嚼するように読んでいると、不思議に心が落ち着いてきます
詩そのものを理解できてもできなくても、ふっと遠い記憶を思い出したり心に引っかかっていた嫌な思い出がほどけていったり、そんなこともあります。

考えてみると、同じ言葉を何度もなぞることって、普段の生活の中では皆無に近いのではないでしょうか
ネットニュースは読み流してしまうし、小説はストーリーが気になって言葉をじっくり吟味なんかしません。
仕事の資料だって、言葉を読むというよりは内容に間違いがないかのチェック作業ですよね。

短い文章を何度も何度も読み返すというのは、それも意味や正しさを考えず、ただ言葉がつくる情景を思い浮かべて読み返すというのは、普段の私たちと対極にある行動のように思います。

詩について、著者のナ・テジュ氏はどのように考えているのかご紹介しましょう。

蜂蜜が本来、さまざまな花の中にあったように、詩はこの世の万物、この世のあらゆる人の考えと感覚、その人生の中にすでに内在している何かだ。それを詩人たちが持ってきて自分の詩にする。

<詩作ノート 蜂蜜の言語>より

詩を読み返していると心が落ち着いてくる理由は、まさにこれではないでしょうか。

自分の中に潜んでいた言葉が、何度もなぞられることによって自分自身の記憶や想いと結びつき、心の表面に滲んでくる。
そんなセルフケアのような、自己との対話のようなことができるのが、詩の効果なのかもしれません

最後に、私が本書の中でいちばん心を惹かれた一編をご紹介します。
何度も何度も読み返して、自分の中から何が引き出されてくるか、じっと観察してみてくださいね。

(文=安岐はづき)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?