「あんこも人も思いやりで包みたい」 餡月好郎(あづき・よしろう) --歓喜人006--
解脱温泉向かいにある老舗和菓子屋「げだつや」で「解脱饅頭」製造スタッフとして働く餡月好郎(あづき・よしろう)。解田剛(解脱温泉支配人)の祖母、通称「解脱ばあ」の元で働き始めて五年目だ。
「僕がここで働くようになったきっかけは、あんこが好きだからです。それは僕のばあちゃんの存在が結構大きい。もういないんですけど、ばあちゃんが生きている頃は幼かった僕にあんこのお菓子をよく食べさせてくれました。甘いものといえばあんこでしたね。」
「あと、解脱ばあを見ていると自分のばあちゃんを思い出すんですよ。ばあちゃん子だったんで。解脱饅頭は歓喜町でも名物だしもちろん知っていたんですけど、ある時、あの饅頭は解脱ばあ一人で製造しているということを知って、何か手伝えることはないかなと思って。」
餡月好郎(あづき・よしろう)の主な仕事は、解脱饅頭の製造。だが、まだ饅頭づくりにおいて最も重要とされる「解脱仕上げ(解脱の焼印を押す工程)」は任せてもらえないようだ。
解脱ばあに言わせると、好郎はどうやら饅頭を作り始めると没頭して瞑想をしているのと同じ状態に至り、そこまでは良いのだが、108個目で止まってしまうらしい。これではまだ焼印を預けるわけにはいかない、と言うことなのだ。
饅頭に関してはまだまだではあるが、仕事は熱心だ。重いものを運んだり饅頭の配達をしたり、体力的に負担のかかる作業は全て彼が担い、日々「解脱ばあ」のサポートをしている。自身の亡き祖母と重ねるのか、彼の解脱ばあに対する思いやりには目を見張るものがある。ところが思いやりが過ぎてしまうことがあるようだ。例えば…
・散歩は「外は危険だから」と発見次第連れて帰る
・読書は「目が疲れるから」と声に出して読み聞かせる
・休憩時のお茶菓子は喉に詰まらせないように、限りなく細かく刻む
・トイレで何かあるといけないので、一緒に入ろうとする
・階段の昇り降りで落ちないように、抱っこして運ぶ
・寒くなると解脱ばあの履き物を懐で温める
思いやりがすぎ、過剰に心配してどうしようもなくなると「甘いもの=あんこ」を食べて自分を落ち着かせる。だから好郎のポケットにはいつも「あん玉」が入っているし、毎日の弁当はもちろん「おはぎ」だ。
そんな彼に解脱饅頭について聞いてみた。
「美味しいですよ。生地はふっくらで、あんこも多めであんこ好きには嬉しいですよね。サイズも一般的な饅頭より大きめですし。」
働き者の好郎だが、月に2回、彼の姿が消える日がある。それは満月と新月。一体何をしているのだろう。
「僕は基本的に月の満ち欠けに合わせて働いています。というのも、満月の日はやる気は十分なんですが、なんだか注意散漫になってしまって。生地の上にあんこじゃないものをのせて包んでしまうんです。名刺とかハンドクリームとか。逆に新月は全くやる気が出なくて1個も作れない。いずれにしても仕事にならないので休みます。
でも月って本当に綺麗じゃないですか。だから満月の日はずっと満月を見ていますし、新月の日も同じくずっと新月を見ています。いつもそんな風に過ごしていますね。」
通常、新月は太陽の光が強すぎて見えないはずなのだが、好郎の目には見えるのだろうか。
ところであんこと同じくらい月が好きみたいだけど、どっちの方がより好きなの?
「難しいですね、難しくて選べませんが、あんこは単純に好きな食べ物で、月はもちろん好きですが、好きである以上に何かものすごいものって感じです。僕のやる気を上げたり下げたり。」
好郎の肩にも注目してほしい。
「あ、これですか?解脱饅頭の手拭いです。僕が好きな「解脱饅頭」と「月」を合わせたらこうなりました。自分で勝手に作っちゃったんです。仕事では結構汗をかくので便利です。」
まだまだ修行半ばの好郎。近い将来「解脱ばあ」からしっかりバトンを受け取り、歓喜町名物「解脱饅頭」の看板を背負って立つ日が訪れることを期待したい。
撮影協力:小冨士屋(新潟市西蒲区岩室温泉)
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