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反出生主義への応答:生まれること産むことにノーと言う思想をどう考えるか

森岡正博 「反出生主義」という考え方が、哲学に親しむ人の間でにわかに注目を集めている。これは、私は生まれてこないほうが良かったとする考え方であり、人間は子どもを産まないほうが良いという考え方である。生まれてきたとしても苦しさやつらさに見舞われるのだから、そもそも生まれてこないのがいちばん良いし、子どもを産んで彼らに人生を強制させるのは間違っているという思想だ。 このような意見に対しては、生まれてきたら苦しみだけではなく、快楽や楽しさもあるではないかと反論したくなるだろう。

    • 森岡正博『人生相談を哲学する』(2022年2月刊行)「まえがき」全文

      哲学者が右往左往しながら思索する、前代未聞の人生相談。 人生相談は人間とは何か? という真理につながる扉。その場しのぎの〈処方箋〉から全力で遠ざかり、正解のない思索へ誘う哲学エッセイ。哲学カフェ、学校授業でとりあげられた話題連載に書下ろしを加え、書籍化! まえがき 『人生相談を哲学する』とは不思議なタイトルですね。「人生」を哲学するというのは分かりやすいですが、なぜ「人生相談」を哲学するのでしょうか。 実は、私は二〇〇八年から数年間、『朝日新聞』の文化面で「人生相談」

      • 倫理揺るがす「人工脳」:脳オルガノイドとガストルロイド・生命科学の限界線どこに

        生命科学技術は驚くべきスピードで展開している。今回はその最前線を紹介して、人間の生命に食い込むテクノロジーをどのように考えればいいのかを探ってみたい。 発生生物学者のM・ランカスターらのグループは人間の皮膚の細胞から人間の脳を作成し、2013年、英科学誌ネイチャーに論文を発表した。この脳のサイズはかなり小さく「脳オルガノイド」と呼ばれる。妊娠9週の胎児の脳に匹敵する脳が、すでに数百個作成された。シャーレの液体の中でクラゲのように揺れる脳の姿は衝撃的である。 まず人間の皮膚

        • 無人兵器は「人道的」か:クリーンな戦闘とは?AI自律兵器と戦争倫理

          九月二七日、旧ソ連のアゼルバイジャンとアルメニアのあいだで武力衝突が起きた。一一月一〇日に停戦が成立したものの、双方に多くの死者が出た。 両国はロシア、トルコ、イランに囲まれた小国であるが、石油や天然ガスに恵まれた地域であり、紛争には大国の意図も絡む。だが今回は、彼らが使用する兵器に注目が集まっている。 米誌ニューズウィークなどは、アゼルバイジャンがイスラエルやトルコのドローン型無人兵器を多数使用したと報道した。そのなかには、ハーピーやハロップと呼ばれる自律型ドローン兵器が

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          「82年生まれ、キム・ジヨン」:三代の女性たちが励ましの糸でつなぐ絆

          韓国でベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が二年前に邦訳され、話題になった。同作を原作とした映画が日本でも公開された。小説と映画でストーリーに違いがあるとはいえ、この世代の女性が人生のなかで共通して経験してきたことを繊細に描き切っており、さまざまなことを考えさせられる良作となっている。 この作品の主人公はキム・ジヨンという三〇代の女性だ。大学を卒業して会社に勤めるが、結婚・出産を機に会社を辞める。そして孤独な子育てや、夫婦双方の実家との人間関係に消耗し、や

          「82年生まれ、キム・ジヨン」:三代の女性たちが励ましの糸でつなぐ絆