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無人兵器は「人道的」か:クリーンな戦闘とは?AI自律兵器と戦争倫理

九月二七日、旧ソ連のアゼルバイジャンとアルメニアのあいだで武力衝突が起きた。一一月一〇日に停戦が成立したものの、双方に多くの死者が出た。
両国はロシア、トルコ、イランに囲まれた小国であるが、石油や天然ガスに恵まれた地域であり、紛争には大国の意図も絡む。だが今回は、彼らが使用する兵器に注目が集まっている。

米誌ニューズウィークなどは、アゼルバイジャンがイスラエルやトルコのドローン型無人兵器を多数使用したと報道した。そのなかには、ハーピーやハロップと呼ばれる自律型ドローン兵器が含まれている。これは人間の指令がなくても、自分の判断で自爆攻撃ができるロボット兵器である。

自律型兵器の実態を詳述したポール・シャーレの『無人の兵団』によれば、人間はハーピーを敵の領空内におおざっぱに打ち上げるだけでよい。ハーピーは二時間半にわたって滞空することができ、敵のどのレーダーを攻撃するかを自分で決定し、そこへ突入して自爆する。ハーピーが破壊するのは敵の建造物だが、もしその中に人間がいれば、巻き添えになって死亡することもあるだろう。自爆攻撃の最終決定を行なうのは人間ではない。最終決定を行なうのは、ハーピーに搭載された人工知能である。

この延長線上には、敵の兵士を殺すことを目的とする自律型の兵器が考えられる。SF映画によく登場する殺人ロボットのような兵器である。

それらは「自律型致死兵器システム」と呼ばれる。近年、その開発と使用を規制しなくてはならないという声が国際的に高まり、特定通常兵器使用禁止制限条約の枠組みのもとで議論が進められてきた。

二〇一九年に一一項目の指針が採択され、兵器を使用する際には人間が関与しなくてはならないと規定された。つまり、完全に自律したロボット兵器が自分で判断して人間を殺すことが起きてはならないとしたのである。ただしこの規定に反発する国もあり、実際に効力を発揮できるかどうかは不透明である。

自律型ロボット兵器のイメージは恐怖心をあおるが、実際にはプラスの面もあると言われている。たとえばロボット兵器が戦場に投入されれば、そのぶんだけ人間の兵士の犠牲者が少なくなる。また、搭載された人工知能が兵士と民間人を的確に見分けることができれば、民間人の犠牲者も激減する可能性がある。

今日では、たとえば空港の出入国管理に顔認証システムが使用されているわけだから、その膨大な情報を利用すれば、ロボット兵器が個人特定の判断を行なう際に役立つだろう。将来は、顔だけではなく、さまざまな生体の特徴をもちいて個人を瞬時に特定する技術が開発され、判断はますます洗練されるだろう。

これによって、戦争のあり方が大きく変わる可能性があると私は考える。二〇世紀の戦争のように、建物や地域を雑に攻撃して多数の人命を奪い合うような戦いではなく、殺したい人間たちをピンポイントで狙って消していく「クリーン」な戦いが登場するのではないか。

二〇一一年、米軍は国際テロ組織アルカイダの指導者であるウサマ・ビンラディンを暗殺した。米軍はパキスタンに潜むビンラディンの潜伏先を突き止め、ヘリコプターで住居を急襲し、部屋にいた彼を特定して殺害した。最小限の死者を出しただけで作戦は成功したのである。

ここで想像をたくましくしてみよう。もしこのときに洗練されたロボット兵器があれば、さらに的確にビンラディン個人だけを狙って殺害することができただろう。将来は、敵の軍事システムの破壊に加え、相手国の重要人物たちをロボット兵器がピンポイントで狙って暗殺し、その指揮系統を無力化して、最小の人的被害で戦争を早期に集結させる作戦が採用されていくにちがいない。

これはすなわち戦争が、非常に洗練された暗殺ゲームに似てくるということである。民間人の被害も最少で済む。もちろん戦争は避けなければならないが、もし不可避になった場合には、これこそがもっとも“人道的”な戦争の姿であると言われたとき、いったい誰が反対できるだろうか。テクノロジーが私たちの良識に突き付けてくる難問だろう。(終わり)

* 共同通信配信で地方紙に2020年11月に掲載された記事。

* この記事が掲載された直後の2020年11月28日、イランの著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が、首都テヘラン近郊で暗殺された。BBCは次のように報じている。「イランのメディアはその後、ファクリザデ氏は「遠隔操作できる自動小銃」か「人工衛星から操作された」武器で殺害されたと報じた。シャムハニ少将は葬儀の場で、「特別な方法」を使った遠隔操作による襲撃だったと認めた。「電子機器を使った非常に複雑な計画で、現場には誰もいなかった」。」私が上記記事で予想していたようなことが起きてしまった。ちょうど米国とイランの緊張が高まっていた中でのことだった。さいわい、まだ戦争には至っていない。このようなピンポイント攻撃はますます増えるだろうし、いずれ人工衛星から直接に狙撃するシステムが使用されるだろう。戦争と暗殺が合体し、我々の想像の及ばないようなところへと行こうとしている。

BBC「イラン核科学者暗殺は「遠隔操作で行われた」 葬儀で高官発言」
https://www.bbc.com/japanese/55140818

* 近々有料記事にする予定(100円)。

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