財務面から見るファジアーノ岡山~勝負の2年に向けて~

 筆者は会計・財務のプロフェッショナルではないので、もしかしたら記載内容に誤りがあるかもしれません。その際はTwitterのリプで教えていただけると助かります。

1 はじめに

 今オフの積極的な外国人補強が目立つファジアーノ岡山ですが、今回はあまり語られていない財務面を掘り下げてみたいと思います。「なんとなく単語だけ知っている」だけではわからない北川社長を始めとした経営サイドの努力を感じ取っていただけたら嬉しいです。
 会計知識がない方にも読んでいただきたいこと、自身の知識量から簡便な記載となっていることはご容赦ください。

2 2020年の財務状況(フロー編)

 まず最初に前年度(2020年2月1日~2021年1月31日)の決算がどうなったか見てみましょう。下記リンク先の表をご覧ください。
ファジアーノ岡山 2020年度 経営状況について | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA (fagiano-okayama.com)

 この表は①経営状況と②財政状況の2つに分かれています。
 ①は損益計算書の部分ですね。1事業年度の収益と費用が記載されており、その差額から利益(当期純利益)がわかります。
 ②は貸借対照表の部分で、企業の資産(現預金や不動産)や負債(借入金や買掛金)の状況を見ることができます。

 まず①経営状況からみていきましょう。
 リンク先のページにある「経営数値に関する分析」を読んでいただけたら、ある程度の状況は掴めると思います。
 そして、ここで着目したいのは事業費です。2019年の11億2,300万円から2020年は9億9,700万円と1億2,600万円の削減となっている一方、その内訳にあたる選手・チームスタッフ人件費(以下選手等人件費)は6億5,400万円から6億5,600万円とほぼ横ばいで推移しています。つまり、選手等人件費以外の部分でかなりの経費削減を行ったことがわかります。結果として赤字額(当期純損失)は1,900万円まで圧縮できたわけですし、この企業努力はもっと称えられて良いと思います。
 
 
しかし、ここで選手等人件費以外の事業費はできるところまで削減したのでしょう。翌期(2021年)の事業費を削減するなら選手等人件費に手を付けるしかありません。その年のオフに起こった出来事といえば、赤嶺真吾や上田康太といったベテランかつ比較的高年俸(と思われる)選手との別れでした。
 また選手補強においては、若手選手のレンタルとトライアウト経由での完全移籍、そしてJ3からの完全移籍と小規模なものであり、誰が見ても人件費削減を行っていると感じ取れたと思います(この中から定位置をつかんだ選手が3人もいることは素晴らしい)。
 まとめると、2020年の時点で選手等人件費以外で削減できるところはほぼし尽している、2021シーズン前は選手等人件費の削減にも手を付けていたということです。

3 2020年の財務状況(ストック編)

 では続いて②財政状況について見ていきます。おそらくここは皆さんあまり気にされない項目なのではないかと思うので、最初に基礎の部分から始めたいと思います(わかる方は1パラグラフ飛ばしてください)。念のためもう一度リンク先を載せます。
ファジアーノ岡山 2020年度 経営状況について | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA (fagiano-okayama.com)

 2の最初に記載したとおり、財政状況の項目では企業の資産や負債がわかるようになっており、資産=負債+純資産の関係が成り立ちます。多少のずれは端数処理の関係で生じたものなのでお気になさらず。そして、資本金と繰越利益剰余金は純資産の内訳項目になります。資本金は株主が出資した金額、繰越利益剰余金はこれまでの当期純利益の合計と考えてください。

 では具体的な数値を見ていきます。
 まず目につくのは総資産ですね。2019年の5億7,500万円から2020年は9億1,100万円と大幅に増加していることがわかります。
 ここで「なぜ2020年は赤字だったのに総資産がここまで増加しているのか」と思われる方もいるかもしれません。これについては総負債も見ていただけると理由がわかります。
 総負債も4億2,100万円から7億7,600万円と大幅に増加していますね。つまり、金融機関から融資を受け資金を調達したと考えられます。簿記を齧ったことのある方なら仕訳が想像つくのではないでしょうか。借入金(負債)の増加は現預金(資産)の増加でもあります。もっと簡単に言うと、手元にあるお金(資産)が増加したのは、どこかからお金を借りてきた(負債)からであるということです。
 北川社長はタウン情報おかやまに寄稿していますが、第15回の記事に財務状況について記載された箇所があります。リンクはこちら。《第15回》2020年コロナ渦において考えた3つのこと。 - 日刊Webタウン情報おかやま (tjokayama.jp)
 
 一部を抜粋します。「その中で、昨年はコロナ禍の影響で試合が開催できなくなり、入場料収入が入らない状況となりました。現金収入が絶たれた状態ですので、わずかな貯えしかない現金がなくなれば倒産です。5月に何とか当座の資金繰りの目途がつき最悪の自体は回避できましたが、今でも役員や経理部長と相談していた会議室の情景が夢に出てきます。」

 この記述からは、試合開催ができない期間が長引くと資金がショートしてしまう危険性があったことがわかります。そして5月に資金繰りの目途がついたということは、金融機関からの資金調達の見込みが立ったことが要因の1つと考えられます(その他にも租税の納税猶予を申請したとか色々考えられますが)。
 幸いなことにシーズンが再開され、観客を入れての試合開催もできるようになったこと、2に書いたように経費削減の努力を行ったことから、2020年途中からは心配する状況ではなくなったのでしょうね。

 続いて、純資産について見ていきます。2020年は1,900万円の赤字であったことから、繰越利益剰余金が同額減少しています。したがって純資産は1億3,400万円となっています。
 では純資産がさらに減少するとどうなるか。ここで債務超過について考えてみます。債務超過は簡単にいうと資産<負債の状態になることです。資産=負債+純資産であることから、債務超過では純資産はマイナスであることがわかりますね。つまり次に1億3,400万円以上の赤字を計上すると債務超過となることがお分かりいただけると思います。
 クラブライセンス制度における財務基準において、3期連続の赤字と債務超過はアウトですから、債務超過の心配のない体制を構築する必要が出てきていたのが2020年だったということになりますね。

4 勝負のできる体制へ(減資と増資)

 そして財務基盤の強化のために行った減資と増資について見ていきます。
減資及び増資のお知らせ | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA (fagiano-okayama.com)
 減資とは資本金の額を減少させること、増資は逆に資本金の額を増加させることです。
 減資の目的は様々ありますが、主なものとしては欠損の補填(繰越利益剰余金のマイナスをなくす)が挙げられます。
 増資の目的は資金調達ですね。新たに株式を発行して、それを引き受けてもらうことで資金を確保します。

 ではファジアーノ岡山が行った減資と増資はどのようなものか。
 まず減資により資本金は9,825万円から98万2,500円に減少、減少した金額をそのまま資本剰余金に振り替えています。資本余剰金とは資本金に計上しなかったものであるため、結局は単なる項目の変更ではあるんですが、変更するしないでは大きく変わってきます。
 法人税法の話になりますが、資本金が1億円以下の法人は中小法人等と規定され、税率や交際費の損金算入について優遇されることになります。
 つまり今回の減資の意味としては、増資により資本金が1億円を超えないように調整することにあったということです。
 そして、増資により資本金及び資本剰余金がそれぞれ6,175万円増加しています。これにもルールがありまして、会社法第445条の規定により、株式発行に際し払い込まれた金額の2分の1までは資本準備金(資本剰余金の内訳項目)に計上することができることとされています。したがって今回の場合、増資により1億2,350万円の出資をうけることができたため、半分を資本準備金に計上したということがわかります。最終的には資本金は1億円を超えない範囲で処理を終えることができていますね。

 まとめると、減資により資本金の額を減少させて増資の準備を行い、増資を行うことで1億円以上の出資を受けつつ、半分は資本準備金(資本剰余金)に計上することで資本金の額が1億円を超えないよう調整したということになります。これにより、補強に使える資金を確保しながら、赤字を出しても債務超過にならない体制を作り上げることができたと言えます。これが本日(1月8日)の新加入会見において北川社長が述べていた部分になります。

5 最後に

 文章にすると簡単ですが、この一連の流れでは減資・増資に理解を得られたことが非常に大きいと感じます。増資ですから誰かが株式を引き受け出資しないといけませんし、新たな株式を引き受けない(新たに出資しない)株主にとっては自己の持ち株比率が下がることになりますからね。
 そのような状況でも理解を得られたのは、クラブとして徹底的に無駄な経費を削減する取り組みを行ったこと(社長曰く筋肉質な体質)が大きいと思います。
 そして今オフには上門・井上の移籍金も入ります。目標の昇格に向けてシーズン途中の更なる補強を期待してもよいと思いますので、どのように勝負できる体制を作り上げていくか今から楽しみですね。
 また今期(2021年2月1日~2022年1月31日)の決算が出たら何かしらまとめようかなと思います。


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