見出し画像

実録 『コロナ渦中のドイツ音大入試』 【前編】


みなさん、こんにちは。ドイツ在住チェロ奏者で時々物書き、上原ありすです。

今回は、コロナ渦中に受験したドイツの音楽大学の入学試験について、書いていきたいと思います。

歴史に残る出来事と言われるこのコロナ騒動。現在でも国ごとに様々な感染対策が為されています。
音大入試時においても規制がかかり、例年と違う点が多く見られました。

それに伴い、大変なことばかりではありましたが・・・思い返せば、今だからこその貴重な体験。折角なのでお伝えしていきたいと思います!

ちなみに私は、日本の東京藝大卒業後に渡独。マインツ音大(Hochschule für Musik Mainz)のチェロ科に在籍していましたが、今回、ドイツでの仕事や活動の幅を広げるために一念発起し、ケルン音楽舞踏大学(Hochschule für Musik und Tanz)のバロックチェロ科を受験することにしました。

バロックチェロとは、現在一般的に使用されているチェロの旧型、つまりオリジナルとなった形のもの。これについてはまた改めて、記事を書きたいと思っています。


1.ドイツにおけるコロナ規制の流れ


さて、まずは最初に、ドイツにおけるコロナ規制の大まかな流れを。
正確性は保証できませんが、もしご興味あれば。入試についてのみお知りになりたい方は、飛ばしても問題ありません!

2~3月:日を追うごとに規制措置が厳しくなっていく
・国境管理の開始
・感染症危険情報レベル1→2(不要不急)→3への引き上げ(渡航中止勧告)
・生活必需品、銀行、郵便局等以外の店舗閉鎖
・公共施設の閉鎖
・レストランは18時まで営業可→閉鎖、テイクアウト・デリバリーのみ
・大規模イベント禁止→少数でも人数制限が強化されていく
・公共空間における距離規制
・公共・私的空間における滞在世帯数や人数の制限
・学校閉鎖

4月:規制の延長や強化
・入国者への14日間隔離措置実施
・マスク着用推奨→義務化

5月:少しずつ規制緩和がはじまる
・宗教活動のための集会再開
・一部公共施設や店舗の営業再開
・通常患者の計画的施術再開
・レストランはテーブル案内制、個人情報の記入義務
・少人数での大学授業再開
・市民学校や音楽学校での授業再開

6月:規制緩和がすすむ
・イベントでの人数制限の緩和
・公共空間における滞在世帯数や人数の緩和
・ドイツ入国時の14日間隔離義務不要の国が増える
後半:ドイツ国内での精肉工場集団感染
・一部地域でロックダウン再開
・一部州への出入域や宿泊に制限がかかる

7月:マスク着用義務など規制はあるも、ほぼ緩和して日常生活が戻る

8月:入国に際し無料検査が導入。陰性の場合、隔離措置免除など
後半:新規感染者数がじわじわと増加


9月:新規感染者数増加続く
・マスク着用義務違反の罰金措置
・距離を取らない場合の罰金措置

10月:規制措置の再開
・飲食店の営業時間縮小
・公共の場でのアルコール摂取禁止
・イベントにおける人数制限強化
・国内でのリスク地域からの入域や宿泊禁止など規制強化
・私的空間での世帯や人数制限強化

以上が、私が受験や入学準備に明け暮れていた頃の、ドイツにおける規制の流れ。見てお分かりの通り、秋に差し掛かったあたりからまた新規感染者が増加し、規制やロックダウンが再開。
バカンス文化のあるドイツにも拘らず、夏に規制緩和を行ったからでは・・・と言われています。


2.入試日の延期

ドイツの大学は、基本「夏学期(Sommersemester)4~7月」と「冬学期(Wintersemester)10~2月」の二つに分かれており、それぞれの学期の入学に向けて年に二回受験が行われます。(8月・3月は夏・春休み)

※注:大学や学部・楽器によっては、冬学期のみの入学に限定されている場合が多いので、受験や留学を考えている方は、希望の大学のHPや受験要綱の説明に注視してください!

例年では、入学までのスケジュールは大体以下の通りでした。
(私が受験した、ケルン音楽大学の院(Master)バロックチェロ科を例に挙げています)

夏入学:申込期日 10月頃まで → 入試 1月頃 → 合否通知 2月頃
冬入学:申込期日 3月頃まで → 入試 6月頃 → 合否通知 7月頃

その後、それぞれの学期開始に向け1,2カ月ほど、書類提出や入学・移住準備に追われる、という感じになります。

そんなわけで、3月までに申し込みを済ませた私は、6月の入試に向けてガンガン練習に明け暮れていました。(申請締め切りの延長などはありませんでした)

しかし、4月辺りに届いた申請受理の手紙に「入試日が延長になる可能性があるため、HPのお知らせを随時チェックしてください」との文が。
どれくらい延長になるのか正確にはわからず、しばらくもやもやと過ごすことになります。

大学のHPをチェックする日々の中、入試は大体9~10月辺りに延長になるとのお知らせが。その後6月の後半に、先生からの個人メールで入試日の正確な日付け(9月22日)を知らされ、その後、大学からも正式な通知と、当日における注意点についての書類が届きました。


3.入試当日の規制事項

事前に受け取った書類に記載されていた、コロナ渦ならではの規制事項は大体以下の通り。

・大学への入館は、事前練習の10分前のみ可能
・入館にあたって、身分証と大学からの書類を提示すること
・館内ではマスク着用必須
・マスクや身分証、書類を忘れた場合、入館は不可
・試験後は速やかに退館すること。

大体このようなことが書かれていました。
マスクを忘れたら受験できない、とは・・・。この時期ならではの注意事項ですね。


4.入試本番の体験記


さて、そんなこんなで迎えた当日。
私は前日にケルン入りし、入試に臨みました。

入館可能時刻になるまで、大学の外で待機。
10分前ぴったり。しっかりとマスクを着用して、いざ受付へ。

身分証と書類を提示しながら、名簿にサイン。
すると、一人の女性が立ち上がり「付いて来て!」と。

案内に従って進むと、まずはトイレの前へ。
「ここで手を洗ってね」とのこと。感染予防徹底しているなぁと感心しながら、チェロを背負ったまま手洗いを済ませました。

その後、別の階にある事前練習部屋へと案内され
「試験時間になったらまた呼びに来るから、それまではトイレや緊急時以外は、なるべくこの部屋から出ないでね」と。
もちろん、私としてはたっぷり練習したいので、トイレ以外は部屋から出ず、時間まで大人しく練習にいそしみました。

そしていよいよ、呼び出しが。
今度は別の人が、試験部屋へと案内してくれました。
例年のケルン音大での受験がどのように行われているかはわかりませんが、こうして受験者一人の移動につき一人の案内者が付くのも、コロナ規制ならではだったのかなぁと思います。

部屋の前につくと、試験官の先生と思わしき二人の男性が談笑中。
そして私に気付くと、さっと扉を開き・・・「Youkoso!」と片言の日本語!
私が希望していたRainer Zipperling先生とは、コロナのために事前のレッスンが受けられなかったため、この日が初対面。にもかかわらず、あたたかく招き入れてくださいました。

試験会場は、ホールなどではなく大きめの練習室。
三人の試験管の先生と、チェンバロの伴奏助手の方により、試験が始まりました。

勿論、試験での演奏中はいつも通り。
しかし、試験後はコロナ渦ゆえの規制により、私は大きな不安に苛まれることになるのです・・・

=====================


続きは、後日アップの後編で!

入試での演奏を終え、いよいよ物語は合否の行方に向かいます・・・

最後までお読みいただきありがとうございます! 自分の文章や演奏に反応いただけることは最上の喜びです。 気に入っていただけましたら、ぜひ『サポート』を宜しくお願い致します。頂いたサポートは、今後の活動費用に使わせていただきたいと思っております。 フォローやコメントも大歓迎です!