見出し画像

もう「普通」の日々は、戻らない ー 現実を見つめて、未来に思いを馳せる

MIT Technology Review英語版の、3月17日発のこの記事が面白かった。私は4月9日に読んで、そこから、いろいろ考えている。

本稿は「この記事のなにが自分の琴線に触れたのだろう?」ということを考察し、頭を整理するためのポストです。印象に残った箇所を抜き出し、その部分を読んで感じたことを記します。太字はすべて筆者によるものです。

We all want things to go back to normal quickly. But what most of us have probably not yet realized—yet will soon—is that things won’t go back to normal after a few weeks, or even a few months. Some things never will.(私たちは皆、物事が迅速に通常に戻ることを望んでいます。 しかし、ほとんどの人がまだ気付いていない、しかしすぐに気がつくことがあります。数週間や数か月経っても、通常の状態には戻らないでしょう。なかには、永久にもとに戻らないこともあるでしょう。)

COVID-19の性質や、過去の感染症について見聞するほど「この感染症が治る日は来るのか?」「早くても2年以上かかるのではないか?」「その2年間で、世界は決定的に変わってしまうのではないか?」という思いが、私は募っていた。この記事で「永久に戻らないこともあるでしょう」とはっきり書かれていて「やっぱりそうだよね」と納得した。

That means the pandemic needs to last, at a low level, until either enough people have had Covid-19 to leave most immune (assuming immunity lasts for years, which we don’t know) or there’s a vaccine.(つまり、パンデミックは、十分な数の人々がCovid-19に対する免疫を獲得するまで(免疫が数年間続くと想定して。ただしこの想定が正しいか否かは、現時点では不明)、またはワクチンが入手可能になるまで、低レベルで持続せざるをえないということです。)

各種情報を総合して自分が抱いていた予想と、この記事の主張が一致して、納得感を抱いた。良くも悪くも、自分の考えに同意してくれるから、私はこの記事を最後まで読み続けたのかもしれない……。逆に、この現実を受け入れられない・受け入れたくない人は、この記事を読まない。それに、こういう意見を無視したい人も多くいるだろう。

In a report yesterday, researchers at Imperial College London proposed a way of doing this: impose more extreme social distancing measures every time admissions to intensive care units (ICUs) start to spike, and relax them each time admissions fall. Here’s how that looks in a graph.(昨日(3/16)、インペリアルカレッジロンドンの研究者たちはある方法を提案しました。集中治療室(ICU)への入院数が急増し始めるたび、より極端な社会的距離(social distancing)方針を発動し、入院数が落ち着くたびに方針を緩和します。これをグラフで示すと、以下のようになります(グラフは原文を参照)。

Under this model, the researchers conclude, social distancing and school closures would need to be in force some two-thirds of the time—roughly two months on and one month off—until a vaccine is available, which will take at least 18 months (if it works at all). ”(このモデルでは、少なくとも18か月かかるワクチンの利用開始まで、3分の2の時間、社会的距離政策と学校閉鎖(まとめて以下、社会封鎖)を強制する必要がある、と結論付けています。 つまり、約2か月方針を発動し、1か月は方針緩和を続けるということです。)

素人の私でも思いつく「こういう流れになるのかな」という予想。それをきちんとモデル化して、分析して、シミュレーションを作っている研究班がいて、その結果ももう発表されている……今回のCovid-19を通して、世界的な研究の速さやその結果が共有されるスピードには感動させられっぱなしだ。

しかしこのシミュレーション、改めて言語化してデータを見せられると、納得とともに絶望感。18ヶ月こんな状況が続くのか……。記事においても、この引用部分の直後に「18ヶ月だって!?」という文章が続いている。

And what if we decided to be brutal: set the threshold number of ICU admissions for triggering social distancing much higher, accepting that many more patients would die? Turns out it makes little difference. Even in the least restrictive of the Imperial College scenarios, we’re shut in more than half the time.(もし、私たちが残忍になることを決めた場合はどうなりますか? つまり、もっと多くの患者が死ぬことを受け入れ、社会封鎖を発動するためのICU入院患者数の閾値をはるかに高く設定したら、どうなりますか? ところが、それでも、違いはほとんど生まれないことがわかりました。 本研究のシナリオで、最も制限の少ない状況でさえ、私たちは2分の1以上の時間、社会封鎖されることになります。

This isn’t a temporary disruption. It’s the start of a completely different way of life.(これは一時的な社会中断ではありません。 それは、まったく異なる世界の始まりです。)

ある閾値以上のICU入院患者が発生したら社会封鎖……という施策をするなら、閾値(入院患者数)を変えても、アウトカム(社会封鎖)の発生率はほとんど変わらない。つまり、医療崩壊はある程度しかたない・たくさんの人が死ぬのは不可避だよねと腹をくくっても、患者数はあっという間に閾値を超えてしまう。Covid-19、感染力強すぎ……。無理ゲー感。

We’ll see an explosion of new services in what’s already been dubbed the “shut-in economy.” One can also wax hopeful about the way some habits might change—less carbon-burning travel, more local supply chains, more walking and biking.(「おこもり消費」と呼ばれている分野で、新サービスの爆発的な増加がすでに見られています。 人々の習慣にもたらされる変化に、希望の灯を感じることもできるでしょう。例えば、低炭素型の旅行や、地産地消の地元サプライチェーン増加、ウォーキングやサイクリングの増加などが、変化として挙げられます。)

もともと引きこもり気質・リモートチームの自分としては馴染みのあるオンライン会議、おうちエクササイズ、ゲームや音楽や本などの在宅趣味の活発化などを見かけると、良いこと!と思うと共に、みんな大好きオンラインショッピングは、遠くからものを運んでくれる物流システムがあるから可能なんだよねと痛感する。こういう状況での持続可能性は、どうなんだろう。あと個人的には「低炭素型の旅行」ってなんやねん……と思う。


このあと「Living in a state of pandemic」という小見出しがはいり、次の段落から「では、未来はどうなっていくのか?」という考察がはじまる。

Part of the answer—hopefully—will be better health-care systems(答えの一部は、うまくいけば、より良い医療システムになるでしょう)

正攻法はこれだが、今回のCovid-19のすさまじさを見ると、「うまくいけば」という但し書きをつけたくなる記者の気持ちがよくわかる……

In the near term, we’ll probably find awkward compromises that allow us to retain some semblance of a social life. Maybe movie theaters will take out half their seats, meetings will be held in larger rooms with spaced-out chairs, and gyms will require you to book workouts ahead of time so they don’t get crowded.(近い将来、いまの社会生活の維持を可能にするような妥協点が見つかるでしょう。 おそらく映画館は座席の半分を取りさり、会議は椅子の間隔を空けられる広さのある部屋で開催され、ジムは混雑しないように事前予約が必要になるでしょう。)

Ultimately, however, I predict that we’ll restore the ability to socialize safely by developing more sophisticated ways to identify who is a disease risk and who isn’t, and discriminating—legally—against those who are.(しかし最終的には、誰が疾患リスクをもち、誰が疾患リスクをもたないかを特定する、より洗練された方法が開発され、そして高リスクな人々を合法的に「差別」することにより、安全に社会生活の機能を取り戻すと予測します。)

高リスクな人々を合法的に「差別」……とは、納得感があるが、物議をかもす表現。そして、日本社会でどのように受け取られるかに懸念を感じる。

この手法が実現するためには、網羅的な検査体制とトレーサビリティの確保が必須。この後で紹介されているような事例ですでに萌芽が見られるので、技術的には可能だろう(テクノロジー系企業に期待)。しかしそこで心配になるのが、本邦のITリテラシー平均レベルの低さ。国としてICT教育に投資していないこと、そして超高齢化社会……このあたりのツケが発露するのではないかと懸念。まぁ小市民の私が懸念しても仕方ない。一個人として出来ることをしよう。すなわち、新しいテクノロジーはガンガン活用していこう。

シンガポールと中国の事例が挙げられている。

まず、全症例について、感染者の住居や勤務先など、接触追跡データを公開しているシンガポールのはなし。

それから、移動時に、過去14日間の位置情報をスマホアプリをつかって提出する必要がある中国のはなし。地下鉄に乗る際は「安全である」ことを示すコードを発行してもらい、建物に入る際にはそのコードを見せる必要がある、等々。


We don’t know exactly what this new future looks like, of course. But one can imagine a world in which, to get on a flight, perhaps you’ll have to be signed up to a service that tracks your movements via your phone. (もちろん、この新しい未来がどのようなものになるか、正確にはわかりません。しかし飛行機に乗るには、スマートフォンを使って動きを追跡するサービスに登録する必要があるかもしれない……そんな世界が想像できます。)

個人情報の保護も大切だが、公衆衛生という絶対的な社会善を実現するために、個人の権利を制限せざるを得ない未来がすぐそこまで来ているのかも。「なんだか気持ち悪いからいや」と言われがちな位置データの活用が、with Covid-19の世界線では不可欠なものになっていくのかもしれない。

We’ll adapt to and accept such measures, much as we’ve adapted to increasingly stringent airport security screenings in the wake of terrorist attacks. The intrusive surveillance will be considered a small price to pay for the basic freedom to be with other people.
As usual, however, the true cost will be borne by the poorest and weakest. 
(テロ攻撃に対応するために空港セキュリティ検査の厳格化に適応したのと同じように、私たちはこのような対策に適応し、それを受け入れることになるでしょう。他者と同じ空間にいるための基本的自由を享受するための、 侵入的監視(intrusive surveillance)は、小さな代償と見なされるでしょう。
ただし、いつものように、真のコストは最貧層と最弱層が負担することになるでしょう。)

社会保障制度へのアクセスがない人や貧困層が多いエリアに住む人、Uberなどギグ・エコノミーの担い手などが、より感染者になりやすいわけで、そういう社会的弱者が差別されることが増え、より立場が弱くなるであろうことは容易に予想ができる…。さらに、

Moreover, unless there are strict rules on how someone’s risk for disease is assessed, governments or companies could choose any criteria—you’re high-risk if you earn less than $50,000 a year, are in a family of more than six people, and live in certain parts of the country, for example. (誰かの疾病リスクを評価する方法に関する厳密な規則がない限り、政府や企業は任意の基準を選択できます。たとえば、年間収入が50,000ドル未満、6人以上の家族に属している、特定の地域に住んでいる、等を基準にすることもできます。)

一企業の意向で、「翔んで埼玉」のように「なに! 埼玉だと! 汚らわしい!」という世界が生まれる可能性も十分にあるわけだ。パロディじゃなくて、本当の話として。

この記事は米国内向けに書かれたものだが、どこの国にも「あのエリアはちょっと…」みたいな差別はある。決して他人事ではない。「XXは外国人が多いから、住むのはちょっと…」みたいな会話、日本国内でもけっこう耳にする。そういう差別が疾病リスクの名のもとに正当化されてしまう可能性は、十分にある。

The world has changed many times, and it is changing again. All of us will have to adapt to a new way of living, working, and forging relationships.
(世界は何度も変化してきました。そしてまた、今も変化しています。 私たち全員が新しい生き方、働き方、人間関係の作り方に適応していかなければなりません。)

本記事の主張はこの部分。私にとって、とても納得感のあるメッセージだ。絶望的ともいえるこの状況で、どんな未来を思い描いて、つくっていくか。現実を直視して、頭と手を動かしていくしかない。

この記事のオリジナルはこちら。

MIT Technology Reviewには日本語版もある。Covid-19特集は無料公開中。

4月22日更新。紹介した記事の日本語版もでた!


サポートでいただいたご厚意は、「パラグライダーと私」インタビューで生じる諸経費や執筆環境の整備に使わせていただきます。