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「印税」っていくら貰えるの? 【改めて出版業界の知識を学ぶ】



 こんにちは、マイストリート岡田です。

「本を出す」となるとなったら、気になるのが「印税」はいくら貰えるのか、ということですよね。

 自分が書いたものを1冊の本にまとめ、それを商業出版する、というのは誰もができるわけではない、すばらしいことです。

 しかし「本が出たら印税をたんまり貰える」というわけでは決してありません。夢見がちになりすぎると、現実をみてがっかりしてしまうこともあります。

 今回はこの「印税」ってなんなのかを解説していきます。


■「刷部数印税」は、価格と印刷部数と印税率によって決まる

「印税」といっても大まかに分けて「刷部数印税」「実売印税」があるのですが、まずは基本的に採用される「刷部数印税」について説明します。

 こちらは「刷部数」によって印税額が決まります。書籍が発行されたあと、だいたい翌月末か翌々月末に支払いされます。

 まずわかりにくいのは、「印税」がいろいろと数字を組み合わせた上のパーセンテージで決まることです。原稿を何文字書いたらいくら、何時間働いたらいくら、のように、一定額が決まっているものではないのです。

 大まかな計算方法は

 本体価格(税抜価格)×印刷部数×印税率

 となります。

 例えば「650円」の本を「15,000部」刷って、印税率が「10%」だとしましょう。そうすると著者が貰える印税額は「975,000円」となります。

「おお、結構貰えるじゃん!」と思ったでしょうか。しかしこれは文庫書き下ろしで出版した場合の、結構いい条件のものだと言えます。刷り部数が15,000部だと、印税率が10%になることは少ないでしょう。だいたい印税率は7~8%になるのではないでしょうか。

 7%だと「682,500円」、8%だと「780,000円」となります。

 書籍を出版する場合、企画書を提出して承認が降りた段階で、価格と部数が提示されています。部数はその後「部決」という印刷部数の最終決定段階までの状況次第で増減することがあります。

 本体価格は年々上昇していっています。これは製紙の値段が年々上昇していることもありますし、印刷部数が少ないと本体価格を上げて対応することも多いです。紙代は本当に高いので、ページ数が多くなるとその分価格は高く設定されることになります。

 消費税率が上がったことにも連動しますが、以前はだいたい600円代で買えていた文庫本も、いまでは税込み700円以上になるのが当たり前になっています。

 出版物の印税率が設定され、価格、部数が決まることで、「初版印税」がわかります。

 書籍は発売されて世に出たあと、売り上げが良くて在庫がどんどん減っていったり、書店からの追加発注が多くなると、重版が検討されます。

 重版されれば、その部数分また印税が入ることになります。契約によっては重版分から印税率が変わる場合もあります。これが著者にとっては不労所得になります。だから重版は嬉しいのです。


■「実売印税」は、一定期間後に売れた冊数で計算される

 契約によっては、売上部数によって印税が支払われる「実売印税」というものもあります。

 僕の仕事の範囲ではほぼありませんでした。小説に関しては、ある程度の規模がある出版社では「刷部数印税」が採用されていると思います。「実売印税」で運用されているのは、新興のアルファポリスさんくらいでしょうか。

「実売印税」の場合、どれくらいの部数が刷られたかによらず、実際にどのくらい売れたかによって著者に支払われる印税額が決まる、というものです。その区切りはおおよそ半年後となります。3ヶ月で区切る場合もあるようです。

 つまり書籍が発売してから半年以上、著者にお金が支払われないことになってしまいます。書籍の制作期間を考えると、1年くらい支払いがないということになってしまいます。これはあまりにも厳しい。

 ということで中には「初版保証」として、部数の何割かは先に支払うこともしているようです。こうすることである程度は発行時に著者に支払いがされます。その保証金額以上の部数が売れた場合は追加で印税が支払われることになるのです。

 しかし全国の書店に出回っている書籍は、現状のシステムだと正確に売り上げ数をカウントすることができません。なので書籍を保管している倉庫に残っている数(返品数)から逆算して売れた部数を見るようになります。

 例えば1万部刷った場合で保証を30%分先に支払っており、半年後、倉庫にあるのが3000部だった場合、追加で4000部分の印税が著者に支払われます。返品が多く倉庫に7000部残っていた場合では追加の印税は発生せず……というようになります。

 こうすることで、売れ行きが良ければ著者へ追加の支払いをすることになりますが、売れ残った30%分の印税が節約できるというわけです。出版社側のリスクは減りますが、著者側がかなりリスキーになります。出版までに半年かけて制作したとして、発売されても半分しか印税がもらえず、さらに半年経つまで追加が貰えるかどうかがわかりせん。

 ただ、実売部数は著者側にリスキーな分、印税率が良い場合もあります。これも契約内容次第ですね。

 こういった実売印税の契約は、著者への振り込み回数が増えてしまうので少々煩雑になります。元々刷部数印税を採用している出版社であれば、印税率を下げるよう交渉するとは思います。印税率10%ではなく、5%で書いてくれませんか、と。シリーズものの続刊を出すことが決まっても部数が少なくて予算が厳しい場合、そういった相談が発生する場合もあります。


■印刷部数をなるべく多くするための戦い

 部数に関しては、企画が通ったあとからその書籍の周辺要素や付帯価値などによって変動します。

 例えば「オビに有名人のコメントを載せます!」とか「○○で読みたい本ランキング1位!」とか、そういったアピールを営業部に訴えます。コミカライズします、アニメ化します、という要素があれば部数アップも狙えます。

 こういった書籍の価値をアピールするのは、基本的に取次に書籍をたくさん仕入れてもらう必要があるからです。出版流通は印刷された書籍を取次という卸問屋に納品し、そこから全国の書店へと配本してもらいます。

 出版社は新刊書籍の情報をアピールし、出荷部数を増やすことができるように工夫をしているわけです。

 けれど現在は書籍の出版点数は増えているけれど、個々の部数は減っているのが現実。そんな中で初版から部数を多くするのは至難の業になっています。


■しっかりと確認しておきたい「印税率」の話

 印税の計算で最も大切になってくるのは「印税率」です。基本的には著者がもつ割合は10%となりますが、様々な条件下でその割合は変わっていきます。10%も印税率が貰えるのは売れた場合です。厳しい!

 これまでも説明してきたとおり、少ない部数でしか出版できない場合は5~8%に減ることもあります。出版社と著者の間にエージェントなどの別企業が挟まる場合もあります。その場合は10%の印税をエージェントとの間で分配することもあります。原作付きのマンガの場合は、おおよそマンガ家7:原作者3という割合で分けられます。

 このように「印税率」がケースバイケースなのもわかりにくさの一因です。

 売れ行きがよくシリーズとして続刊が出せている場合、途中から印税率を上げられることもあります。重版分からの印税が上がる場合もあります。出版社によっては、初版部数が一定数を超えた場合は印税率がアップする、という規約を定めている場合もあります。

 これらの「印税率」は各出版社のルールによってある程度定められているので、何か書籍を出版するとなった場合は必ず確認して、文面に残る形で証拠を残しておくとよいでしょう。

 出版社は慣習的に「契約書を交わす」というやり取りがあいまいであることが多く、著者やイラストレーターとの信頼関係で成り立っていることが多いです。ですがお金の問題はシビアです。「印税率」のルールに関してはしっかりと確認しておきましょう。

 著者は出版社と「出版契約書」を結ぶことになりますが、書籍が発行されてから契約書を確認して判を捺す……なんてこともよくあります。契約関係しっかりしてほしい。

 ちなみにイラストレーターの場合でも、ライトノベルなど出版物の役割として大きく寄与している場合、「印税」が設定される場合があります。多くの場合はイラストの原稿料として一定額を支払い、「紙書籍・電子書籍・販促物に使用しますよ」という条件のもとイラストをお願いすることが多いです。イラストレーターさんが自身のサイトや同人誌に使用する場合は(念の為連絡をいただいた上で)問題なく許可しています。そして別の用途でイラストを使う場合は二次使用料として別途料金を支払っています。

 こういったイラストの扱いやイラストレーターさんとの契約(契約書を結ぶことは少ない)は、どういったやり方が最適なのかしっかり学んでおきたいです。

■電子書籍は印税率は高くなるが実売計算

 もはや主流になってきた電子書籍ですが、こちらの場合は物品を作り出すわけではないので「刷部数」というものが存在しません。

 なので一定期間後の売り上げを集計し、そこから印税率で計算して支払額が決まります。電子書籍の場合は紙の書籍と違って原価の割合が異なるため、印税率も変わってきます。多くは紙の書籍の印税率よりも高くなっています。

 コミックやライトノベルは電子書籍での売り上げの割合が高くなっていますが、文芸書やライト文芸などはまだまだ紙書籍の割合が多いです。

 電子書籍は刷り部数や市場在庫に縛られない展開が可能なのでとても流動的です。書店のセールに合わせて値段が変動したり、サブスクリプションの読み放題もあります。Kindle Unlimitedは読まれたページ数によってお金が支払われる仕組みですね。

 価格や部数に縛られないのがこの電子書籍です。

■「印税」は全部もらえるわけじゃない!

 基本的に価格×部数×印税率で貰える印税額が決まるのですが、それがすべて貰えるというわけではありません。

 もちろん「税金」がかかるのです。
「印税」には「税」と付きますが、これは税金ではなく著作物の利用料として支払う金額なので、税金とは分けて考える必要があります。

 著者となる人は法人化していない場合「個人事業主」という扱いになるので、支払い時には「源泉徴収税」が引かれます。これがかなりの額で、100万円以下は10.21%が引かれます。100万円を超える分に関しては20.42%が引かれます。えげつないですね。この0.21%ってなんなんだって感じです。計算しにくい。

 小数点以下の税金は、「復興特別所得税率」と言って、2011年の東日本大震災の復興財源として創設された税金で、2037年まで実施されるものだそうです……と書きながらも現在のコロナ禍の復興はどうなるのだろうと思っっております。

 650円×15,000部×10%で975,000円の印税額になるのですが、実際に入るのは875,453円となります。
 そしてこれは消費税を込まない場合の金額です。

 出版社にもよるのですが、個人に対する支払いで消費税込みにするか、消費税を含めないのかまちまちです。こういった税金に関することは複雑なので、しっかりと勉強しておきましょう。僕もわからないことが多いです。

「印税」による収入が発生した場合、確定申告が必要になります。執筆のための取材や購入した資料、打ち合わせの交通費などは「経費」として計上できます。確定申告をすることによって、税金が還付される場合もあります。給与所得がある場合は節税にもなりますので、税金のことはしっかり勉強しておきたいですね。

■まとめ

・出版社の印税に関する契約は「刷部数印税」と「実売印税」の2種類がある。

印税率が10%で出版をしてくれるところは稀。刷部数も減少傾向にあるので著者に支払われる印税は少なくなっている。

・電子書籍は印税率が高めの設定になっているけど、完全実売印税。

印税からもしっかり税金は引かれている。確定申告を覚えてしっかり対策。



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