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カニを愛でるようになって初めて故郷のカニを食べた。

そういえば、故郷金沢は、冬でもカニに出会える場所だった。
カニはカニでも愛でるカニではなく食べる方のカニである。

町を歩けばカニにぶち当たる。
市場やスーパーはもちろん、
お土産屋さんの店先や
雑貨屋の棚にもカニのものが売っている。

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(かにかにドロップスには、カニパウダーが入っているのだが、意外に美味しいドロップだった。やたら大粒だったけど。)

こんなにカニあふれる金沢に帰省しているのだから
カニを食べないわけにはいかない。

関西にいた頃は毎年母に送ってもらっていたが、
島に移住してからは、新鮮なまま届けられないということで、
ずっと食べていなかった久しぶりのカニ。

島で陸のカニに出会い、
カニを愛でるようになってから
故郷のカニを食べるのは初めて。
自分が食べてどんな気持ちになるのか興味もあった。

早速スーパーにカニを買いに行く。
我が家は、ズワイガニ派では無くメスの香箱ガニ派である。
香箱はズワイよりも小さいがギュッと濃い気がするし、
たまごも抱えているのに値段も安い。

カニを選ぶ時は、お尻のピンク色が濃いのがいいらしい。
おしりを見ながら重くて可愛くて元気そうなのを選ぶ。
みんな、まだ生きて手足や口を動かしている。

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カニをそおっと手に持ち話しかけつつ帰る。
海の中から、こんな場所に連れてこられて
何を思っているのだろうか。
太陽のひかりは眩しいのだろうか。

「ごめんね。美味しく食べるね。」

帰宅してすぐ茹でる。
カニというものは、
新鮮なうちに茹でると
美味しいのだ。

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海水よりも少し薄めの沸騰したお湯に、
昆布を一切れ浮かべ、
カニのお腹を上にして一気に入れる。
ここでカニの命の火が消えた。

さっきまでこの硬い手足を器用に動かしていた力は
一瞬でこの身体からいなくなったのだ。
どこにいったのだろう。
この鍋の周りにまだ居るのかな。
もうどこかに飛んでいってしまったのかな。
恋しい海へ帰ったかな。
自由にカニカニしているといいな。

茹であがったカニの身体は赤く色づいて
心なしか茹でる前よりも幸せそうにみえた。
みんなしてこちらをみてる。

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茹であがったカニを食べやすいように捌き
シークワーサーを添える。

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おひさまを抱えるカニ。

よく冷えた日本酒とカニを前に
つい姿勢を正してしまう。
カニのカタチはつくづく美しいと思う。
手を合わせて「いただきます」。

いつも力をいただいているカニに感謝して
まずは足の身から口に入れる。
やっぱり、美味い!!
足の付け根、たまご、
大好きな味噌部分は最後まで残るように
ゆっくりチビチビと。
日本酒にとてもよく合う。

今年は新型コロナの影響で移動しづらいご時世ではあったが、
父が亡くなり、母が一人暮らしになって、
初めての年越しというのもあって、
わたしたち夫婦は、ゆっくり時間をとって
帰省することにしたのだった。
こんなふうに3人でゆっくりお酒を飲むのも久しぶりだった。

ただただ、
「おいしいねー!」
と言いながら一緒に食卓を囲むこと。

些細なことではあるけれど、
あたりまえにできていたことが
急にできなくなったりするこの時代、
実はとてもありがたいことだ。

しみじみとしあわせを噛み締めながら
カニとお酒を味わった。

父との結婚時の話しなど聴きながら、お酒がすすみ、
妹家族がくる年末まで置いておこうと話していた
一升瓶の封も、とうとう開けてしまった。
妹家族には申し訳ないが、
こういう夜もあっていいよね。


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今回帰省してから
母がずっとテレビをつけっぱなしにしているのが
気になっていたのだ。
もともとテレビをよく観る人ではなかっただけに、
そんな母の様子から、
どうしようもない淋しさを感じていた。

滞在3日目のきょう、
初めてテレビのつかない晩ご飯だった。

カニはひょうきんな横歩きで
はさみをチョキチョキしながら
停滞しているものをかきまわし
いらないものを断ってくれる。

カニを身体にとりいれることによって
カニの命のチカラもいただけた気がした。

カニは愛でるのも食べるのもいい。
カニさまは内側からも見守ってくれるのだ。

あおきさとみ

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