こなごな

暇潰し、あるいは教科書に書いた消せない落書き

こなごな

暇潰し、あるいは教科書に書いた消せない落書き

最近の記事

夏の忘れ物

僕は昔から夏という季節に対し、過度な思い入れをいている節がある。 中学生のとき、8月も終わりごろになると、今年の夏もなにもせず終わってしまう、という奇妙な焦りを強く感じていた。 それはいまでも大きくは変わっていない。なにか特別なことをしたくなるし、どこか特別な場所へ冒険したくなる。 自転車に乗って空を見上げてみる。 青空が広がっている。 明日どこへ行こう。

    • 飛行機

      夏の、とても暑かった日のこと。 ようやく日が落ちて暗くなった後、ぽつりぽつりと雨が降りだした。 空気はまだ熱を帯びたまま、僕の肌のうえを生ぬるい感触を残しながら這う。 すこしだけ冷たい雨の粒が、熱をもった腕に、首筋に、ぽつりと落ちる。 空を見上げる。 飛行機が、赤や黄色の光を点滅させながら上空を横切っていた。 この雨は続くだろうか。

      • 僕たちはまだ

        僕たちはまだなんにでもなれる。 果たしてそうかな? まだなにもしていない僕らは、一方では可能性に溢れているといえるけど、一方ではただ先を見るのを怖がっているだけということもできる。 僕たちはほんとうにまだ、なんにでもなれるのだろうか? ひとりでいる夜、唐突に不安になる。 僕にはなにができて、なにができないのか? 無性に走り出したくなる。ゆっくり歩いていたらこの夜に取り残されるような気がするのだ。 息が上がり、身体が汗ばむ。 夏の夜の熱気が脇を通り抜ける。 僕たちには

        • みんなのうた

          高校を卒業して、彼女は髪を染めた。 高校を卒業して、彼はピアスを開けた。 高校を卒業して、彼女は化粧を覚えた。 高校を卒業して、彼は酒を飲むようになった。 偶然街中でばったりあったあの子に、僕はまったく気づけなかった。 地元で待ち合わせたあいつに、僕はまったく気づけなかった。 鏡を見る。 僕の見た目はまるで、あの卒業アルバムの中から飛び出して来たみたいに変わらない。 全然変わらないね、と、 変わった彼らは、彼女らは、僕にそう声をかける。 僕は、 よく言われる、

        夏の忘れ物

          年齢を重ねるごとに、夜の長さを知るようになる。 小学校高学年になり、21:00からのTVを観るようになった。 中学生になり、塾から帰るのが22:00過ぎになった。 高校生になり、あの人からのLINEを待って日付を跨いだ。 これから僕が知ることになる夜は、どのくらい長いのだろう。僕は何をきっかけにその長さを知るのだろう。 そして極限まで夜の長さを知ったあと、僕はたぶん朝の尊さを知るのだろう。