夜の訪問者
誰もが寝静まった深夜
玄関のドアを叩く音が聞こえた
誰かいる?
ドアを開ける
猫
白地にうす茶色の模様
大きな瞳でぼくを見つめる
鈴のような澄んだ声でぼくを呼ぶ
君はぼくの心を掴んだ
ミルクとチーズを食べて
君は夜の闇に消えていった
ぼくは君に恋をした
∌ 春
県立K高校に通うぼく
友だちはいない
一言も口を開かぬまま一日が過ぎる
K高校では大学レベルの授業が行われていた
ぼくにはわからない
教師の声は聞こえない
落ちこぼれ
ぼくはどうなるのか?
不安と虚しさ
家に帰ると
参考書の意味のわからない数式を眺めて
そして閉じる
ノートにはきみの瞳を描いた
きみを待つ
ただ夜が深けていく
☀ 夏
夏休みになった
父親が家から出ていった
父と母の冷戦がなくなるなら
それは悪くはない
ぼくは
ソファに寝転び
流れ行く雲をただ眺めていた
横たわるぼくの胸の上には
君がいた
君の息づかいを感じている
呼吸が重なる
∞ 秋
二階のベランダには君のための毛布を用意した
物置小屋から庇をつたって二階までのぼってくる
ぼくの部屋からベランダの君の寝床が見える
きみはそこで寝て
日が昇るとどこかにいっていまう
ぼくのために獲物をとってきてくれたりした
ぼくがソファで寝転んでいると
君は添い寝してくれた
でも、
ぼくはもう暇じゃないんだ
大学に行くことにしたんだ
∂ 初冬
ベランダの寝床は空いたまま
君は帰ってこなかい
魚もチーズも食べに来ない
ぼくは街中探したのに
気配が消えた
ひとりで机に向かう
❀ 早春
冷たい夜風に梅の香だけ
もう会えないんだね
ぼくは大学に合格したよ
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