見出し画像

新しい門出

店に入ってきたときに、すぐ気づいてしまった。
けれど何もないかのように、「今日は、どのような髪型になさいますか?」といつも通りの接客をする。
いつもだったら写真を見せながら、こんな感じにしてください!と笑顔でされる返答も、今日はない。
曇った表情と腫れて重そうな瞼がただただ物語っている。
今日はこれくらいの長さにしてください。とか細い声で言ったのとは裏腹に、15cm以上も切ってほしいとのことだった。
いつもだったら「せっかく伸ばしたのに、本当によろしいのですか?」と重ねて質問するだろうが、今日ばかりは必要ないと思い、「承知しました。」と答えた。
切り終えると、彼女は床を見て、「本当にこんなに切ったんだね…。苦笑」とそこに風が吹けば消えてしまうくらいの声でこぼした。
聞こえなかったフリをして、「後ろはこのようになってます。ショートもすごくお似合いです!」と少し声を弾ませながら、明るく言ってみる。
「意外と似合うかな?まあ乾かすの楽になるし。」と言葉を少し震わせながら、強がりだと悟られないように、明るく振るまっているのが分かってしまう。

お会計の時、「気づいてとは思いますけど、彼氏と別れちゃって、未練を断ち切って、次に進むために、こんなに切っちゃったんです。笑。でもショートも意外と気に入りました!」と無垢な笑顔で最後に話してくれた。

前に進むために切った新しい髪型も、彼のために尽くしてきた思いががたくさん詰まった切られた髪たちも、どちらも凛として美しい。

あなたにまた新しい恋が訪れますように…と心から願って送り出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます! それだけで次を書こうと思う原動力になります。 もし少しでも良いなと思えたら、スキやシェアもしていただけたらなお嬉しいです(^^)