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独身アラサー男子 vs ツバメの若夫婦

それは雨風の強い、ある春の日の仕事帰りの話です。

先日、僕は引っ越しをしたのですが、新居に帰宅し、扉に鍵を差し込む時、『白い何某か』が付着している事に気が付きました。

それを初めて見た時、『鳥のフンが雨風に乗って吹っ飛んできたのかな』と考えていました。実際、そのようなことが起こる可能性は万が一に無いでしょうが、その日は本当に雨風が強く、扉には木の枝や泥土なども付着していましたので、特別不思議には思いませんでした。

そこから数日が経ち、僕が仕事から帰ると、やたらとツバメたちがうちのアパート付近を飛んでいるのを見かけました。春と言えばツバメの巣作り、産卵、そして子育てのシーズン。ツバメも本当に大変ですね。思わずツバメに同情をしてしまいます。

そのツバメ達を駐車場から眺めていると、あることに気がつきました。

あれ…?


『うちの玄関扉の上に、巣作ってないか?』


そうなのです。うちの新居の玄関扉の上には排気口が付いているため、ちょうど何かを載せられる『無の空間』があるのです。そこに愛を育んだツバメの若夫婦が、新居を構えやがりました。

雨風の日に扉に付随していた白い何某かは、ズバリ『若夫婦鳥のフン』でした。「正解は、『若夫婦鳥のフン』です〜!おめでとうございま〜す!」高らかに宣言するMCの声が聞こえてきます。

なぜこんなクイズに正解してしまうのか。もっとこう、自動車学校での筆記試験とかで正解したかった人生でした(1回落ちたので)。ついでに付いていた木の枝や泥土は、もう何かみなさんはお分かりですね?
そうです。巣を作る時の材料です。こぼしやがって…


さて、こうなりゃ話は別です。独身一人暮らしアラサー男の新居に夫婦で居候するなど、言語道断です。愛の巣を堂々と構えられては、こちらの威厳に関わる問題です。ちょうど少し前、『パラサイト 〜半地下の家族〜』を見たばかりでありましたので、ツバメたちに自分の新居が乗っ取られてしまう可能性も考えました。

何らかの方法で幸せを分けてくれれば共生の道も無いことはないですが、どうやらツバメにその気はなさそうです。ツバメには申し分けないのですが、撤去の方向で動き始めました。


どうやら調べてみると、『もし巣の中に卵を産んでいた場合にはどうにもできないと法律で規定されている』との情報が出てきました。何と優しい世界であることか。その子供が巣立つまで、巣を撤去できないみたいなのです。さすがこの世。愛に寛容です。愛にできることはまだまだありそうです。

しかし、その愛の下で涙と嫉妬に塗れて悲しんでいる人の存在を無碍にしてはなりません。アパートの管理会社に連絡を取り、撤去の依頼をしました。実際、巣はちょいと高い場所にあり、普通にしていればその中に卵があるかどうかは視認できませんでした。その段階から見てみます、と業者は快諾してくれました。


そして後日、仕事から帰ってくると、何事もなかったかのように、巣が取り払われていました。どうやら卵はまだ産み付けられてなかったようです。

巣を撤去するまでに、フン害や泥による汚れなどに困っていたために、ようやく平穏な生活を取り戻しました。(まさに『憤(フン)慨していた』とは、こりゃいかに)

しかし、ツバメにとっては『最上の幸せ』である、『新居を構えてこれから子供が生まれてくるゾ』という瞬間に、手を加えてしまいました。生活を守るためとはいい、悪いことをしてしまいました。今頃、あのツバメ夫婦はどこで何をしているのでしょうか。

せめて雨風を凌げていると良いのですが。

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