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心を見せてほしい『セイント・フランシス』

元気がない時は映画を観るに限る。

予告で「私は賢い!私は勇気がある!私はカッコいい!」と新学期にフランシスを送り出したブリジットに多分元気づけてもらえるのではないか。そんな気持ちで『セイント・フランシス』を観てきた。

「これ面白そうだね」と言葉を交わしたような気もする。でも、一人分の席をとる。

いろんなことを突きつけられる映画だった。

身体のこと。
女性として生きること。
愛する人とのrelationship。
宙ぶらりんな生活。
それらにまつわる感情。

ブリジットは同世代。
インスタをひらけば、結婚と子どもが並ぶ。
親はとやかく言わなくなってしまったが、本当はすごく気を遣ってることがわかる。
もしかしたら同級生の母たちからは微妙な質問を投げかけられては、中途半端な返答をしているのかもしれない。
「娘は東京で仕事頑張ってるみたいだから」
その時どんな顔をしているのだろう。あるかどうかもわからない光景のはずなのに、思い浮かべると少しだけ苦しい。

身体もそう。ブリジットのようにダラダラと血が出続けていた時がある。
監査結果が出るまで、誰にも共有するつもりはなかったけど不安だった。
診察に文句をつけられたように感じたのか、急に手のひらを返すようになった医師。お前は男性だからな。想定される日数を超えて、血が出続ける不安なんてわからないんだろう。男には。
だんだんと主語が大きくなる負の感情に、切り分けていくことのできない怒りがあった。


「私だけが割りを食ってる気がする」
26歳の彼にブリジットが、中絶時のことを整理できた際に私にも感情があると言って、そう伝える。

1番その言葉が当てはまるのは愛する人とのrelationshipだ。
公にできず、分かち合えるのは相手とだけ。
しかも期限を設けていて、リミットは昨日よりも今日、今日よりも明日、確実に迫ってきている。
反転させれば一緒にいた時間は積み上がってることはわかってる。
だけど、2年以上経ってもこれか…。
圧倒的に時間が足りない中でタイムマネジメントもクソもないような環境で、この問題を解決するというのはあまり現実的には感じられない。仕事を最優先してきた人間がそうやすやすと優先順位を変えるわけがないだろう。
そんな言葉たちがいつも頭を巡る。

自分で設けた期限なんて、反故にすればいい。
そう思う。だけど、そうやって割りを食うのは自分だけだ。
時間を失い、機会を失い、考えれば考えるだけ苦しくなるのにそれに囚われ続ける。
下手すれば仕事も変えることも考えなくてはいけない。そうすれば保険も家もなんだかんだと変えていかねばならない。
それらは全部私だけに起こることだろう。

相手は「自分は続投なんだぞ」というかもしれない。でもその続投の形は自分で決められるのだろうから、OSのバージョンをアップするようなものだろう。

私の方にガタが来ているのだからそれを、全部を取っ替えていくコストは当然私が払う。

理解はしている。何も感じる必要はない。
淡々と診察台に上がり、エコーの写真を撮って帰るブリジットのように。

でも時々ものすごく腹が立つ。自分で決めたとしても。
なんで同じように割りを食わないんだろう。
なんで全部前向きに捉えてこうなんて呑気なことが言えるんだろう。
始まりは了承した。時を経ることは仕方がないと諦めてる部分もある。でも、いつまでこんな気持ちを持ち続けなくてはいけないのか、それを感じてるのが自分だけなのがすごく腹立たしい。
未来なんて見えるわけがない。自分が見えるところには置かれていないんだから。
こちらがどのように気を遣ってきたかは、自分が思ってる以上に無頓着だと思った方がいい。

自分で努力したことや、昔からトレーニングを積んできたことは否定しない。むしろその環境を与えられてきたことは羨ましいとすら思う。
ただ、自分が心地よくいれるのは、自分のコミュニケーションの在り方や発言をそのままに受け取ってくれる側がいるからだ。
凪いでるのは、相手がそのままの言葉を受け取って終わりにしてくれるからだ。
そんなこと思いもしないんだろうと思う。

思いが伝わらないことが今はただ残念に思う。

連絡を入れてほしいのではない。
プレゼントが欲しいのではない。
会う時間はもちろん必要だけど、そんなのではない。
特別な愛の言葉でもない。



今日、3列目の座席は両隣とも一席空けて人がいた。
左は男性だった。どかっと腰をかけ、不機嫌そうに俯き、夏だというのに全身真っ黒の細身の人。
そういう人もヒューマンドラマ観るんだと思った。

映画もクライマックスといったところで、押し殺すように長く息を吐く音が聞こえた。そして、鼻を啜る音。
男の人でも泣くんだ。
私もこの場面はグッときたよ。
そうして横の男の人に引っ張られるようにして思った以上に泣いてしまった。

潤んだ目でエンドロールを眺めながら、私が欲しいのは心が見えるやり取りだとわかった。
横の男性と同じ場面で泣いた時、心が熱くなると同時に、悲しくもあった。
何にも知らない人とは同じものを観てその瞬間通じる感覚があっても、大切にしている人との感覚はひどく遠かったから。
できるなら感じたことや届いてることが見えていて欲しい。
同じ気持ちじゃなくてもそれはいい。感じ方があるから。

男性性を求めてない。人として一緒にいたい。

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