のようなもの
権力を持った者には、虫が甘い蜜に吸い寄せられるように色んな輩が群がってくる。思わぬ事から時の人になった彼の元には、そんな人間が溢れた。頼み事をする者、悩みを相談する者、良き提案があると持ち掛ける者、あなたが好き……とうっとりとした目で見つめ口説いて来る者。そうして毎日毎日何十人、何百人という人が彼の元を訪れた。だが彼は孤独だった。そうやって彼が力を持てば持つほど、それに群がる人間が増えれば増えるほど、彼はますます孤独になっていった。そうしていつしか彼に本音を言う者は居なくなり、また彼が本音を言える相手も何処にも居なくなった。
神様。
神様とはこんな気分か。
彼は言った。
弱みを見せればいつ寝首をかかれるか分からない。彼は夜もおちおち寝ていられなくなった。起きている間も発言や行動に注意を払わねばならない。彼は段々人と会ったり、メールでやり取りをしたりするのでさえ億劫になり、ついに彼は全てを切り捨てる事にした。
それでも初めは彼に何かを言ってくる人が沢山いた。彼はそれらを全て無視した。人々は彼に失望し去っていった。そして彼はとうとう一人になった。それは孤独に変わりはなかったが、彼の胸には自由の風が吹いていた。
わたし。
わたしはなんだろう。
わたしは風。
わたしは道祖神。
わたしは守る者が居なくなった神社。
わたしは忘れ去られた本。
そんなようなもの。
そんなようなもの。
ありがとうございますサポートくださると喜んで次の作品を頑張ります!多分。