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“便利がすべてじゃない” 10年10万kmストーリー 第93回 フィアット・パンダCLX(1995年)22年24万6000km

 2003年にフィアット・パンダが初代から2代目にモデルチェンジした時は、大きな肩透かしを喰らった。初代のコンセプトが受け継がれず、パンダとは名ばかりで、まったく別のクルマに変わってしまったからだ。
 その理由も、すぐに伝わってきた。実は2代目は本当は「ジンゴ」という別のクルマとして開発されたからだ。パンダというクルマは初代だけで終了し、ジンゴという違うクルマが新たに生み出されたのにパンダという名前だけが流用されてしまった。

 1980年にデビューした初代パンダが高く評価されたのは、20世紀終盤流のミニマリズムの成功例だったからだろう。ボディの各パネルは平面と直線だけで構成されているように見え、機能に裏打ちされていない造形や装飾などが一切拒絶されていた。
 また、メーターユニット以外のダッシュボードの端から端までを深くて自由に使える収納に使えたり、前後のダブルサンルーフも設定されていたりと、小さなボディながら目一杯使い尽くす工夫がいくつも施されていた。
 質素を突き詰めながら、ベーシックカーの実質は充実していたのだ。内装に使われている素材はほぼすべてが樹脂製であるにもかかわらず、それでみすぼらしく見えることがないのも造形の力、デザイナーのジョルジェット・ジウジアーロの手腕によるところが大きかった。

 初代パンダ、それもダブルサンルーフの付いた1995年の“CLX”グレードに22年24万6000km乗り続けている女性を都下に訪ねた。最寄りの駅で待ち合わせていると、遠くから走ってくるパンダはすぐにわかった。“スーパーハイト”と称する最近の背の高い軽自動車やボリューム感のあるミニバンやSUVに混じって、パンダは米粒のように小さく見えるからだった。


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