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ZOMBB 48発目 専用の機体

「何でオレだけ色が違うんだよ?」

次郎が、自分に割り当てられたパワードスーツ、

『衛門下痢音』の前で口を尖らせた。


「何か特別な機体なんじゃねえの?」

次郎の隣で丸川信也が、適当に言葉を濁す。


特別な理由?なるほどな。

次郎はにやりと口を歪ませた。


オレのこれまでの活躍を思い返しても、特別扱いされて当然だぜ。

まあ、1年戦争のエースパイロットの

パーソナルカラーみたいなもんだよな。

スピードもパワーも3倍にチューンアップされてるとか。

ゲシュなんちゃらって敵も、オレが現れたら、

『通常の3倍のスピードの衛門下痢音が近づいて来ます!』

『何?3倍のスピード?奴だ!奴の名は・・・』

なぁ~んて焦ったりして。へへへ。


たしかに他の『衛門下痢音』は、

いわゆる自衛隊色であるオリーブドラブに塗装されていたが、

次郎用の機体はタンカラーと呼ばれる黄銅色―――

砂の色に似た塗料が使われていた。

次郎と丸川の会話を耳にした作業中の自衛官のひとりが、話しかけてきた。

「すいません。

  この機体だけ色が違っていて・・・」

申し訳なさそうに頭を掻いている。

「まあ、いいですよ。

  これって何か特別な機体なんでしょ?」

次郎が自衛官に期待を込めた口調で言った。

「はあ、まあある意味特別な理由があるんですが・・・」


ほうら、見ろ。やっぱりオレの読みが当たってる。

エースパイロット、ジロウ・ヤマダ専用『衛門下痢音』だろ?

他の『衛門下痢音』とは違う、特別仕様の―――。


「なにぶん急な事でしたので、

  備蓄していた塗料が足りなくて、

  その機体だけ余っていたタンカラーで

  塗装せざるを得ませんでしたので・・・」

その自衛官の言葉を聞いて、

次郎の期待に満ちた笑顔はフリーズしたように固まった。

彼の隣で、丸川信也が愉快そうに笑い声を上げている。


は?余り物の塗料?ちょっと待て。それが特別な理由?


「あの、他のとは何か違うんだよね?

  性能とか・・・。たとえばファンネルが使えるとか、

  サイコミュが搭載されてるとか・・・」

次郎の声音には、すがるような色が滲んでいた。

「え?ファンネル?いえ、

  外装の色以外は他の機体と性能は同じですよ」

次郎に質問された自衛官は、あっさりと答えた。

肩を落としている次郎に向かって、丸川信也が笑いながら言う。

「まあ、いいじゃねえか。なんかダンボール色に見えるし。

  ダンボール専用『衛門下痢音』って感じで

  イケてるんじゃね?」


なんだよ。ダンボール専用って。

そう言われてみると、マジでダンボールで

造られたように見えてくるじゃねえか!くぅううううう!


「オレのと交換してくんない?」

次郎は丸川信也に涙目で懇願した。

「それはできねえよ。

  話だと、それぞれの機体はパイロットの身長、

  体重、体型に合わせて造られているらしい。

  あきらめて自分用の『衛門下痢音』を使うしかねえよ」

ため息をつきながら、げんなりしている次郎をよそに、

皆藤准陸尉の声が響いた。

「これより、『衛門下痢音』の飛行訓練を行う!

  パイロットは集合せよ!」

その声と共に、モーニング・フォッグのメンバーと、

綾野陸曹長を含む十数名の自衛隊員が

皆藤准陸尉の前に整然と並んだ。

次郎も丸川信也に襟首をつかまれ、

引きずられるようにしてその中に並ばされた。

「この『衛門下痢音』はジェット推進により飛行し、

  敵要塞に乗り込むためのものだ。

  本官と綾野陸曹長は84ミリ無反動砲を携帯、

  他の自衛隊員は短機関銃MP7を携帯せよ。

  モーニング・フォッグのメンバーの皆さんは、

  自衛隊仕様の89式電動ガンを携帯すること。

  これはできるだけの軽量化を図るためだ。

  敵の『ゲシュンペンスト』の要塞にたどり着いたら、

  『衛門下痢音』を脱し、要塞中枢部への侵入、破壊を遂行する」

皆藤准陸尉の説明を聞きながら、久保山一郎は何気に整然と並んでいる

三十機の『衛門下痢音』に目をやった。


片翼2メートルほどのフラップつき主翼が

左右に取り付けられていて、その上には垂直尾翼があった。

その尾翼を挟む形で、片側に2本づつのジェットノズルが見える。

これで揚力を得て飛行が可能になっているのだろう。

搭乗部分は、頭部、胴部、脚部それぞれに

ラッチレバーがあって、これを押したり引いたりすることで、

素早くパワードスーツの脱着ができるようになっている。

両の拳の下にはゲーム機に使うような

ジョイスティックに似たレバーがあった。

久保山一郎は、あれで操縦するのだろうと見当をつけた。

顔面に当たる部分は、強化ガラスと思われるものでカバーされていた。

これで広い視界が得られるようになっている。


それにしても、陸上自衛隊の工作力には舌を巻いた。

この短期間に、あれほど完成度の高いパワードスーツを、

三十機も造ることが出来るとは―――。

皆藤准陸尉の言葉は続いた。

「本日、1日目は『衛門下痢音』の操縦と飛行訓練、

  2日目はC―1輸送機からの降下、飛行訓練、

  3日目は敵要塞に到着、突入訓練とする。

  これまでにない早急で過酷な訓練になると思うが、

  諸君は成し遂げられるものと信じている。

  それでは、訓練を開始する」

モーニング・フォッグのメンバーをはじめ、

他の自衛隊員パイロット達も、

個々に造られた『衛門下痢音』へと走っていく。

そこで、次郎は初めて気づいた。

自分の『衛門下痢音』以外のメンバー達の機体の色が違う事に―――。


坂原勇専用の機体は赤色に、貫井源一郎の機体は青色、

久保山一郎の機体はオレンジ色に、

坂原隆の機体は黒色に、丸川信也の機体は白色に、

そしてララの機体は、ピンクがかった紫色―――。


な、何だよ、みんな!

赤い彗星に青い巨星に、名家の末っ子と黒い三連星、

それに白狼じゃねえか!

ララのは・・・あっ、そうか!宇宙の蜻蛉だ!


目を丸くしている次郎に向かって、

新垣優美が微笑を浮かべながら言った。

「皆藤さんが、好きな色に塗装してもいいって、

  言ってくれたの」

「はあ?オレは何にも聞いてねえぞ!」

次郎は唾を飛ばして言った。

「お前、ずっと居眠りばかりしてたからなあ・・・」

坂原隆が苦笑している。

「ダンボールとは違うのだよ!ダンボールとは!がはははははは」

青い『衛門下痢音』の前で、貫井源一郎が豪快に、

そして次郎を嘲るように笑った。

「くっそうぅぅぅぅぅぅ!」

次郎は、腹いせ交じりにハナクソをほじり出した。

また鼻がポコッと取れる。

そんな次郎の肩に手を回して、丸川信也が顔をしかめて言った。

「その鼻なんとかしろよ。訓練中に無くしたら、

  もう見つかんねえぞ。瞬間接着剤でくっつけとけよ」

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