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ZOMBB 52発目 突撃

次郎たち、モーニング・フォッグのメンバーらの駆る『衛門下痢音』隊は、

敵要塞まであと十数キロに迫った。

敵のドローンの攻撃が、より一層激しくなる。

機関砲の銃弾が、金色の光を放ちながら、次郎たちを襲った。

だが、自衛隊員のパイロットの搭乗する

オリーブドラブ色の『衛門下痢音』隊が、次郎たちを取り囲んだ。

その中の一人の自衛官が、寸断された無線で叫んでいる。

「我々・・・盾に・・・ご武運を・・・!」

自衛隊員らは、次郎たちの盾となって守り抜こうとしていたのだ。

被弾した数機の『衛門下痢音』が炎を噴いて落下していく。


その光景を見た坂原勇の目に涙が浮かんだ。

他のメンバー達も同様だった。

新垣優美らしい、彼女の震える嗚咽が、

同じ空を飛ぶ皆の耳に、刻み込まれるように響いた。

坂原隆は血が滲むほど、奥歯を噛みしめていた。

貫井源一郎は、その目を敵要塞一点に向け、瞬きもせず睨んでいた。

久保山一郎の額には、血管が浮き上がるほどの

怒りの脈動が流れていた。丸川信也の表情は悔しさと共に、

墜落していく自衛隊員らに視線を向けて、その瞼を閉じた。


今は彼らの無事を、そして海上自衛隊が

救出してくれることを願うしかない。

 だが、次郎は違っていた。

悲壮感を感じさせまいと努めた声で、彼は怒鳴っていた。


「行っくぜぇええええええええ!」

そう叫んでいる次郎の声は、微かに震えていた。

モーニング・フォッグのメンバーらが

装備しているのは、89式電動ガンだ。

これではとても敵のドローンを撃ち落すことはできない。

しかし、自衛隊員らは違う。

彼らはMP7短機関銃を装備している。

彼らは自ら敵ドローンに立ち向かい、短機関銃のトリガーを引いた。

銃身が咳き込むように震える。


放った銃弾は敵のドローンを次々と撃破していく。

空は凄まじい空中戦が繰り広げられていった。

空を揺るがす爆音と渦巻く黒煙の中を、

7機のモーニング・フォッグ隊と

2機の自衛隊仕様の『衛門下痢音』が、突っ切っていく。

その2機は皆藤准陸尉と綾野陸曹長だった。

 その彼らの機体を、ぶっちぎりで追い抜いていく

『衛門下痢音』があった。

その機体色は、タンカラー―――次郎の機体だった。


「うぉおおおおおおおおッ!」

次郎は気合を込めた声と共に、

敵要塞のカタパルト目がけて突っ込んで行った。

目前には夥しい数の敵のドローンが、群がっている。

そのドローンたちが一斉に、次郎の機体に向けて機銃砲を掃射する。

次郎の『衛門下痢音』の主翼は大破し、千切れ飛んだ。

次郎の『衛門下痢音』は錐もり状に猛回転して、

敵要塞のカタパルトに激突した。

火花を散らしながら、次郎の機体は数十メートルも滑っていった。


 同じく敵要塞のカタパルトに、

次々と皆藤准陸尉、綾野陸曹長他、陸上自衛隊員十名、

そしてモーニング・フォッグのメンバーたちが着地していく。

皆藤准陸尉と綾野陸曹長、自衛隊員らは、

なおも襲ってくる敵のドローンを、MP7短機関銃で撃破していった。


モーニングフォッグのメンバー達の前には、

数百体のゾンビが待ち構えている。

メンバー達は89式電動ガンで、ゾンビたちをなぎ倒していく。

次郎は回線がショートしたのか、『衛門下痢音』の機体の数箇所から、

火花を放ちながら、立ち上がった。

即座に、超低空ホバリング走行で、ソンビの群れへと突っ込んでいく。


 「ブラック企業の派遣社員を、なめんじゃねぇええええッ!」

右へ左へ高速移動しながら、ゾンビたちを撃ち倒していく。

巨人ゾンビ数体が、次郎に向かって、

何本もの巨大な拳を打ち降ろそうと、腕を振り上げた。

そこへ坂原勇と久保山一郎が、空高く舞い上がり、

巨人ゾンビ達の頭部を、粉々に吹き飛ばしていく。

丸川信也と貫井源一郎は、『衛門下痢音』を滑空させて、

その主翼でゾンビたちの頭部を次々と、切断していった。


新垣優美は、次郎のサポートに回った。

片翼を吹き飛ばされた次郎の機体は不安定になっている。

次郎に襲い掛かろうとする、ゾンビたちを

89式電動ガンで、葬っていった。

瞬く間に、ゾンビの群れは脳漿を撒き散らした、

ただの肉塊化していた。


皆藤准陸尉と綾野陸曹長はそれぞれ、

『衛門下痢音』のハッチを開き外へ出た。

機体背部に固定してある、84ミリ無反動砲と

百十ミリ個人携帯対戦車弾、通称パンツァーファウスト3を取り出した。

皆藤准陸尉は84ミリ無反動砲を、

綾野陸曹長はパンツァーファウスト3を身構えた。

狙うは敵要塞の正面、百メートル程先だ。


「照準良し!構え!撃て!」

皆藤准陸尉の号令と共に、 同時に発射された弾頭は、

巨大なロケット花火のようなシュッという音を立てて、

白煙をなびかせながら、敵要塞の正面に向かっていく。

着弾すると、耳をつんざくような轟音と共に、巨大な爆炎を上げた。

黒煙が風に流されて薄まると、2発の重火器の攻撃を受けた要塞の壁は、

内側に大きく裂けていた。


見ると人が入れるだけの充分な穴が開いている。

モーニング・フォッグのメンバー達も、

『衛門下痢音』から出ると、89式電動ガンを手に携えて、

二人の後を追った。

次郎も破損した機体のハッチを開いて走る。

十名の自衛隊員らは、まだ敵のドローンとの戦いで

手一杯だった。『ゲシュペンスト』要塞に突入できるのは、

皆藤准陸尉と綾野陸曹長、そしてモーニング・フォッグも面々だけだ。


 要塞内に進入した皆は、唖然とした。

てっきり精密機械で埋め尽くされた内部を

しているものだと思ったからだ。

ところが、内部は要塞の中心に同心円を描くように、

幅20メートル、高さ10メートルほどの、

かまぼこ型の通路が張り巡らされているだけだった。

壁はクリーム色で、何の起伏も無く、

材質も金属なのかどうかもわからない。


「敵の中枢はへの入り口は、どこかにあるはずだ」

皆藤准陸尉はそう言うと走った。他のみんなもそれに続く。

百メートル走ったところで、3機の敵のドローンが姿を現した。

ドローンを操作しているケーブルが奥に伸びている。

皆藤は、その先に敵の中枢があると確信した。

綾野陸曹長は、MP7短機関銃で

慎重に狙いを定め、敵ドローンが攻撃する直前に、

その2機を撃破する。


そこでMP7短機関銃の弾薬は尽きた。

綾野陸曹長が舌打ちした時、残りの敵ドローン1機を撃破しようと、

皆藤准陸尉が9ミリ拳銃をホルスターから

引き抜こうとした瞬間、敵のドローンが機関砲を掃射した。

皆藤准陸尉は、その数発を右肩に被弾し、

夥しい鮮血を霧状に噴き上げながら、

きりもみ状に後方に数メートル吹き飛んだ。


その背後で、新垣優美の悲鳴が、空気を引き裂いた―――。

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