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ZOMBB 4発目 オレのコードネームは「スネーク」だっつーの!

「相模原市って、バトルフィールドの?」
山田次郎はハナクソをほじりながら伊藤店長に訊いた。

「そうそう、いつもゲームやってる場所だよ」

「なんでまた、平日にサバゲフィールドに?」
次郎はハナクソを飛ばす。

「山田くぅん、ハナクソ飛ばさないでよ~」
伊藤店長は、げんなりしてカウンターの上に置いてある、
ティッシュを抜いて、次郎に手渡した。
それからパイプ椅子に座りなおして、言葉を続ける。

「この間さ、坂原弟のV10の
 ホップの調子が悪いってんで、
 ホップパッキンの修理をしたのよ。
 ほら、弟の隆君のラーメン店、
 火曜日定休でしょ?
 それで、V10のホップ調整をしたいって、
 行ったらしいのよ。
 それに、たまたま貫井さんが今日、仕事休みらしくて、
 隆君に付き合って行ったみたいなんだ。
 貫井さんもドラグノフの調整したいからって」

ホップとは、銃身バレルの手前にある、
ドーム状の小さなゴムのことだ。
BB弾が発射された直後、
その出っ張ったゴム———ホップがBB弾に
上への縦方向の回転を与える。
それでBB弾の飛距離を調整するのだ。
このホップの調整は、
そのゴムパッキンを上から押さえている
イモネジで行う。
イモネジを閉めれば、
ホップは強くなり、ゆるめれば弱くなる。
この調整はなかなか難しいところでもある。
トイガンの種類にもよるが、
うまく調整すれば50メートルの飛距離も出せるのだ。

「あの二人だったら、
 やわらかゾンビなんかにやられないっしょ」
次郎はまだ、ティッシュで指に付いたハナクソを拭いていた。

「さあ、どうだかな・・・心配だからって他のメンバーも
 向かったらしいよ」
伊藤店長は心配顔だ。

「他のメンバー?」
そこで山田次郎は、何かを思い出した。
そういえば、メールが来てたような・・・。
携帯電話をテェストリグのパウチから取り出して、フラップを開く。
やはり、メールが入ってた。
坂原兄・・・リーダー・・・いやアジアのランボーからだ。

『スネークのダンボールへ

 パットンと山猫を救出に、
 我々、アジアのランボー、静かなるパトリオット、
 音速の重戦車は、相模原市のバトルフィールドに向かう。
 貴殿も可能ならば来られたし。

 アジアのランボーより』

スネークのダンボールとは、山田次郎のコードネームだ。
次郎はこのコードネームが気に入らない。
プレステのゲーム、
<メタルギアソリッド>の主人公
スネークからきたコードネームだが、
次郎がある時、スネークをダンボールに隠して遊ぶのが好きだと、
<モーニングフォッグ>のメンバーに語ったら、いつからか
そう呼ばれるようになった。
オレって馬鹿にされてるのか?本当は嫌われてるのか?
次郎はまたハナクソをほじりだした。伊藤店長がしかめ面で、
また山田次郎に、ティッシュを渡す。

いや待て。ここにララの名前がない。
へへへ、あの女も嫌われてるんだ~。
ざまあ~。ララは確かに美人だし、
ボンキュッボンのナイスボディだが、性格はキツイし、
一番年下なのにいつも上から目線でものを言うし、
ほとんど森林のバトルフィールドなのに、迷彩服を着ないし、
いつも<ララ・クロフト>のコスプレでやってる。
だから寒い冬場はゲームに来ないし、
暑い夏場は、「メイクが落ちる~」とか
「日焼けするのヤダ~」とか言って来ないし、
<ララ・クロフト>のコスプレだから、
当然、おっぱいの谷間に目がいくじゃん?
それなのに谷間見たら
「ヤダ~、スケベ~!変態!ストーカー!」とか言って、
すぐ殴るし・・・だいたいスケベは、まだいいとしよう。
男はみんなスケベだからだ。
でも、ストーカーはないだろ。
オレなんかストーカーしたの1回しかねえし。
それにまだあるぞ、
あの女はだな、巨乳であることをいいことに・・・・・

「坂原君からメール来てるんだろ?
 それに何ブツブツ言ってんの?
 邪悪な笑顔してんだけど・・・」
伊藤店長の声で、次郎は我に返った。

「で、山田くぅんは、行くの?」

「<モーニングフォッグ>の猛者が、
 5人もいるんだから 大丈夫でしょ」

「なんで、ふてくされてんの?。
 山田くぅんも行ったほうがいいんじゃないかな~」
伊藤店長は次郎を見ずに、店内の端にある、
大きなブルーシートを
チラチラ見ながら言った。
そのブルーシートの高さは2メートル近くある。
何か大きなものに被せているようだ。

「ゾンビが、どれだけの数いるかわかんないんだよ~」

「それよりAKのバッテリー充電と、
 BB弾5000発・・・」

「応援に行くんなら、僕がいい物貸してあげるよ~」

おい、聞いてんのか?BB弾5000発くれって・・・
伊藤店長は、相変わらず
ブルーシートに包まれた何かを見つめている。

「はい、はい、わかりました~。
 で、何貸してくれんの?」
次郎は根負けしたように言った。

「ふふふ・・・。見るかい?」
伊藤店長は、やっと次郎に視線を合わせた。
お前が見せたいんだろ?あ?見て欲しいんだろ?あ?
面倒くさい性格だな。次郎は心の中で愚痴る。
伊藤店長は、やおら立ち上がって、
そのブルーシートの方へ次郎を案内する。
次郎も仕方なく、そのあとを追いて行った。

「見て、驚け!」
伊藤店長は、得意満面の顔で、次郎を見る。
その瞳は少年のようにキラキラと輝いている。。
そして両手で、勢いよくブルーシートを取った。

そこにあったのは・・・
次郎にはパワードスーツに見えた———。

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