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ZOMBB 14発目 ナイト・オブ・ザ・リビング・次郎

山田次郎は、ズーマーXをエチゼンヤの裏口に停めると、
徘徊しているゾンビらに気づかれぬように店内に入った。

「おう、ダンボール!陽動かけてくれたんだってな」
坂原(兄)がうれしそうに言った。

「どうも、ありがとうございました。
  主人ともども私達も助けてくださって・・・」
そう言って頭を下げたのは、
坂原隆の奥さんの沙耶さんだ。
学生結婚だとは耳にしていたが、
想像以上に若くて美人だった。
そして彼女の背後に隠れるようにして
小さな男の子が、じっと次郎を見つめていた。

「ダンボールが囮になってくれなかったら、
  あの場を脱出することはできなかった。
  礼を言うよ。ありがとう」
コードネーム・山猫こと坂原隆は深々と頭を下げた。

「私からも礼を言わせてください。
  この子は孝也といいます。
  本当にありがとうございます」

坂原隆の妻、沙耶も頭を下げる。

そうそう。オレのおかげ。
オレの凄さがやっとわかったようだな。
どんなに礼を尽くしても足りないぞ。
なにしろ命の恩人なんだからな・・・
とそんな本音はおくびにも出さず、

「なあに、そんなことないッスよ。
  はっはっはつ」
そうだ!その通りだ!
このオレ様に感謝するがいい!
と次郎は心の中で思いながら、謙虚に大笑いして見せた。

「まあ、ちょっと時間かかりすぎだけどね」
と新垣優美。

ま~た、オレをディスってる。
この可愛くてエロい体の、たまんねえクソ女め!

「坊や、いくつ?」
丸川信也の問いかけに、孝也は答えた。

「五つ」

「怖かっただろ?大丈夫だったかい?」
と久保山一郎。

「ううん、ボク平気だった。
  パパと勇おじちゃんが守ってくれたから」

おい!このガキ!オレのことは無視かよ!
次郎は孝也を横目で睨んだ。

「遅くなったのは、
  途中で警察官に止められたんだよ」
次郎はハナクソをほじりながら、仏頂面で答えた。

「警察官?」
それに興味を示したのは、久保山一郎だった。
次郎は警察官とのやりとりや、
大勢のゾンビに囲まれた顛末を、かいつまんで説明した。

 「警察はともかく、
  自衛隊はたとえ相手がゾンビでも、
  実銃はもとより重火器の使用許可が
  降りるのは難しいだろうな。
  専守防衛を主旨とするこの日本では、
  シビリアンコントロールされてるからな」
久保山はうなった。

「シビリアンコントロール?」
と丸川信也。彼の問いに久保山は答えた。

「ああ、つまり文民統制されてるってことだよ。
  自衛隊を動かすには、
  まず内閣総理大臣を中心とした
  閣僚会議が行われて、意思決定される。
  それから防衛大臣と
  陸海空の各自衛隊の幕僚長と幕僚議長による会議の後、
  やっと行動に移せるんだ。
  自衛隊単独での判断で行動できないってことなんだ。
  こんなにも早く増殖するゾンビのスピードとは
  反比例するように時間だけがかかる」

「なんだか、面倒臭い話だな」
貫井源一郎が苦笑する。

「おい、何か動きがあったみたいだぞ」
点けっぱなしの液晶テレビを見つめていた
 伊藤店長が声を上げた。
その場にいた全員の視線が、テレビ画面に注がれる。
画面には、世界各国の軍隊が、
ゾンビの群れに応戦している光景が映し出されていた。
その最中、画面上部にニュース速報のテロップが流れた。

『緊急閣僚会議の結果、
  ゾンビに対して、電動ガン及びガスガンなどの
  トイガンが有効である事が認められ、
  自衛隊に配備される事が決定。
  東京マルイ、KSCなどの大手トイガンメーカーが、
  大量のBB弾も納品する事になり、
  それらの製品の製造を増産することに———』

やっと対ゾンビ兵器として、
トイガンが認められた知らせだった。
テレビ画面はスタジオに戻されて、
男性のニュースキャスターが、
それを補足するするように語り出した。

『速報でもありました通り、
  ゾンビには初速・・・秒速のことでありますが、
  BB弾を80メートル以上で発射することが
  できるトイガンが有効であると認められました。
  なお、有効射程距離は30メートルです。
  この速度だと、たとえ人に当たっても
  致命傷に至らないため、安全が確保されるとして
  内閣閣僚会議にて認可されました。
  ただし、護身のために使用される方は、
  必ずゴーグルなどをして目の保護をお願いします。
  それ以外の人も誤射に備えるため、
  ゴーグルの着用を推奨されるとのことです———』

「やっと政府も本腰を上げたようだな」
と貫井源一郎。

「で、これからの私達の行動だけど、
  行くんでしょ?」
新垣優美が言っているのは、
食糧確保のためにモールに向かう事だった。

「ああ、今日はもうじき日が暮れる。
  夜に行動するのは危険だろう。
  明日の早朝、作戦を決行しよう」
坂原(兄)が全員の顔を見渡しながら、
確認するように言った。

「カップめんの買い置きがあるから、
  今夜はそれで我慢してね」
と伊東店長はすまなそうに言った。

「いえ、店長。面倒かけます」
坂原(兄)は頭を下げた。

「それから、この店の2階は仮眠室になってる。
  それに簡易シャワー室もある。
  ただ貯水タンクにある水は貴重だから、
  シャワー浴びるのは女性と子供だけにしよう」
伊藤店長は新垣優美と
坂原隆の妻、沙耶と息子の孝也に視線を向けた。

「ありがとうございます」
沙耶は微笑みながら、礼を言う。

「できたら、一度に3人で
  シャワー浴びてくれないかな?
  少しでも節約したいから。ちょっと狭いけど」
伊藤店長の言葉に、新垣優美もこくりとうなづく。

ちょーっと待て!3人一緒にだと?
次郎の両目は大きく見開いた。
ってことはだ。
母親はともかく、あのガキ、あの齢にして
ララの全裸をなめるように見れるのか?
なんてことだ!
あの、ボンッキュッボンッのエロ~いバディを・・・。
ちくしょう!なんて夜だ・・・。
オレもガキになりたい———。

「おい、ダンボール。どうした?」
貫井源一郎は、
次郎の様子がおかしいことに気づいた。

次郎は生気を失ったように、膝から崩れ落ちた。
その顔色は蒼白になり、
まるでゾンビのようだった・・・。

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