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ZOMBB 7発目 いざ救出へ

山田次郎の見つめる青空には、
ちらほらと綿菓子のような雲が、
ゆるやかな風に乗って流れていた。

なんて、いい天気だ。次郎は思った。
こんないい天気は、
本来ならサバイバルゲーム日和なのだ。
なのにオレは、電化製品を身にまとったような姿で、
片方パンクしたリアカーに乗せられている。

ララの乗ったマシン、
FJR1300ASは一路、国道16号線を走る。
後部のリアカーに乗せられたパワードダンボール次郎は、
ときおり激しくバウンドしながら、
無言でその青い空を見上げている。
周りには、たぶんゾンビがうようよしているのだろうが、
ララがマシンを右に左に操って、避けているようだ。
それはいいのだが、そのたびにリアカーが揺れて、
次郎の体は、あちこちにぶつけられている。
パワードスーツに守られているからいいものの、
そうでなければ死んでいる自信が、次郎にはあった。

国道16号線を抜けると、
リアカーのバウンドはさらにひどくなった。
相模原のバトルフィールドは、山間部にある。
ということは、舗装路ではないのだ。
いびつな轍が残る悪路だ。
何度か、次郎の体はパワードスーツごと宙に浮いた。

だいたいなんで、俺がこんな目に合わなきゃならないんだ?
オレがいったい何をした?たった一度だけ、
ゲーム<メタルギアソリッド>で
主人公のスネークをダンボールに隠して
遊んでるって言っただけなのに、
それ以来、<スネークのダンボール>という
コードネームで、と呼ばれるようになった。
小学生4年生の時に、
<アリクイ>の話———(<アリクイ>が1日、
3万匹の蟻を食うんだってよって言っただけだ)
———を熱心にしたら、
あくる日から、オレのあだ名は
<アリクイ>になってた・・・。
あの時と同じだ。
たった一言で人生は変わっちまう。

その上、新垣優実———ララには、
去年の<モーニングフォッグ>の忘年会のときに、
カラオケで<ももクロ>の歌を熱唱したら、
「あんたキモい」と言われ、
「オレのどこがキモいんだ?」って訊いたら、
あの女はオレを蔑むような目で見ながら、
「腐った魚のような目で歌ってるところ」
って言いやがった。

お前みたいな女は、可愛い顔と可憐なポニーテール、
男心に劣情を催させる巨乳と、
均整の取れたスタイルと、ムチムチの白い脚と
でかいバイクをかっこよく乗りこなしてるところを取ったら、
何も残らねぇんだよ!
次郎はたった今、自爆したのを感じた。
青い空が涙で滲んで見える。

ララの駆るマシン、FJR1300ASが土煙を上げながら、
大きくカーヴして急停車した。
どうやら、相模原のバトルフィールドに到着したようだ。

「さ、ダンボール!行くわよ」
ララの声がした。ダンボールってなんだよ?
せめて頭にパワードつけろよ。
次郎は腰のバッテリーにトグルスイッチをONにした。
それまで重かったパワードスーツが、
まさにダンボールのように軽くなるのを感じる。

リアカーから降りた次郎は、目前の光景に呆気にとられた。
ゾンビが数百体もいる。これは暴れがいがありそうだ。
ララは華麗な動きで、
ゾンビをかわしつつUSPで確実に仕留めていく。
次郎も負けじと走ろうとするが、
パワードスーツの重みからか、
早足なのが精一杯だ。それでも両腕に装備された
ハイサイクルH&K G3 SASマシンガンで、
ゾンビたちを蹴散らしていった。
ララが道を明けてくれたおかげで、
進むのも楽だ。50メートルほど進むと、
<モーニングフォッグ>の
メンバーたちがいた。5人は円陣を組んでいたが、
周りはおびただしいゾンビの集団で取り囲まれている。

リーダーの坂原兄・・・
アジアのランボーが我々に気づいた。

「ララじゃないか!応援に来てくれた・・・」
そこまで言うと、異様な姿の山田次郎を奇異な目で見た。
そして、顔がほころぶ。

「パワードダンボールの登場か!」

パワードダンボール———
次郎は、また小学4年生の時の思い出が蘇った。

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