二項対立で物事を見る危うさ


小熊英二氏の本や記事を読んで、雇用構造の認識の誤りを非常に分かりやすく解説していたものがあったのでメモ。

例えば、非正規雇用が平成に入ってから、特に、竹中平蔵氏のせいで非正規が増えている。と言われる。確かに、民営化した流れの中で、様々な政策に関わっていたのかもしれないが、本当にそうなのだろうか。

(出典:総務省『労働力調査』より小熊英二氏作成(単位:万人))

例えば、上記の図から分かる通り、
正社員の人数は、昭和60年代と今で、ほとんど変わっていない。
一方で、非正規雇用は確実に増えている。
しかし、非正規雇用の増加と反比例して増えているのは、自営・家族労働者である。

つまり、このデータから分かることは、正社員が非正規雇用に成らざるを得ないという構図ではなく、自営・家族労働者が、非正規雇用になっていっているという社会構造である。

分かりやすい例を挙げると、
イオンが田舎にできたら、自営業の商店街が立ち行かなくなる。
一生なんとなく家業を継いでやっていくと思っていた息子世代は店をたたむが、
家業以外のスキル、ノウハウがない為、そこから安定した正社員になることは難しい。
そして、契約社員や非正規雇用として働く。という流れだと思う。

つまり、非正規雇用が増えているのは非正規雇用をどこかが意図的に増やそうとした陰謀ではなく、地方に都市化の波が入っていくことによる社会構造の変化によって生まれたものだということである(悪い人たちはいるのかもしれないが)。

これらは、二項対立構造で、物事を見るのではなく、他の要素、他の層が存在し、それがどのように構造として影響を与えているのかを問い直す姿勢が大切だということを非常に分かりやすく教えてくれている。

ちなみに、非正規雇用が増えていること、自営業者が減っているという事実が問題ないかといえば、非常に問題だと思う。
なぜなら、都市部の暮らしから考えると、これらの層の収入では、親の介護や老後の資金、年金額が非常に厳しいという現実がある。

昭和までの自営業者の多くは、家族で協力していることに加え、地域の相互扶助機能によって、生活をまかなっていた部分が大きい。なので、規模が小さい商売でも、生活面は安定していた。しかし、今は、その地域の相互扶助機能も薄く、それぞれの商店が、個々で競争するような仕組みとなってしまっている為、大企業が参入してくると、総崩れとなってしまう。

また、正社員だから安心だということもなく、正社員のうち、年功序列で年収が上がるのは、約半分程度であり、もう半分は入社以降ほとんど年収が変わらない中小企業の正社員である。つまり、正社員の半分も、都市部の暮らしに対する収入面から考えると、未来が明るいとは言えない。

まとめると、日本の雇用全体の4分の3程度が、都市型の未来の暮らしが厳しいということになる。そして、この格差が拡がれば拡がるほど、一部の年功序列で成り立つ大企業への不満が募っていくのは当然だろう。

では、そうなることはしっかりと考えれば、予測できるはずなので自己責任である。
という説もあるだろうが、それは非常に酷である。
なぜなら、このような日本経済状況を平成期に予測できた人がどのくらいいただろうか。
ということである。
(中国・インドの躍進、韓国の経済復活なども含め)

どうなるか分からないのは、これからも同じだが、このままでいけば、日本の8割以上の人が、非常に苦しい社会構造になっていることは間違いがなさそうということである。

政治、官僚による社会福祉制度の改善は勿論だが、
地域、個人がこれからどのように生きていくのか、を考える猶予はそこまで多くはないんだろう。

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