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「ことわざかるた」を作ろう② わかよたれそつねならむ

 道徳教育で、ああでもないこうでもないとジレンマ教材を与えるのもいいけど、「これはこうだよ」とスパッと教えてくれる「ことわざ」を覚えることの方が教育的だ。日本人の智恵として、多くの「ことわざ」が作られてきた。長い歴史の中から智恵が生まれた。○か×かで答えを出すだけでなく、微妙な生きるための知恵を学べる。
 ジレンマ教材とは、一人の命を助けるか、一人を犠牲にして多くの命を助けるかというような、二つの道徳的価値が対立する物語を考える教材だ。互いに意見を言い合って、自分の考えを深める授業だ。ジレンマ教材でも自分にとっての○か×を考えるが、人生はそれだけではない。微妙な○と×がある。だからこそ「ことわざ」で人生の妙を学びたい。

 今回は「いろは」の「わかよたれそつねならむ」の部分を紹介しながら、他にもいい「ことわざ」がないか考えよう。



笑うかどには福来たる

 笑っていれば良いことがやってくる。笑ったり泣いたり、感情豊かに暮らせば、体内のキラー細胞が活性化して免疫力が高まる。
 実際に楽しくなくても、「わっはっは」と無理に笑えば、人間の脳がだまされて、笑ったときと同じ脳の活動をし、本当に免疫力が高まるらしい。ギャグマンガやお笑い番組を見ることも捨てたものじゃない。学校の授業でも笑いがほしい。


かわいい子には旅をさせよ

 かわいい子は甘やかさず、苦労をさせた方が良い。いつも目の届く場所に子どもを置いとくのではなく、外に、旅に出した方が良い。独り立ちをさせようとする大人の思いも子どもたちに伝えたい。


弱り目にたたり目

 弱っているときにたたりがある。不幸が続くこと。
 「泣きっ面にはち」も、つらくて泣いているときに、さらにハチに刺される。イヤなことが続く。
 「二度あることは三度ある」場合もあるし、「三度目の正直」で、三度目で逆転することもある。人生は予測不能だから、どんなことがあっても対応できるように、いろんなことわざを覚えておきたい。


旅は道連れ世は情けなさけ

 旅は道連れがいると心強く、世の中を渡るには人情が大切だ。昔の旅は命がけのことも多く、仲間がいれば心強い。世の中も互いに助け合う気持ちが大切だ。「きずな」の大切さも伝えられる。
 「人を見たら泥棒どろぼうと思え」ということわざもある。あまり他人を信頼しすぎると大変な目にあうこともある。人を信頼することと、他人に注意することのかねあいが大切。だから、ことわざとしては、どちらも覚えさせる。どちらが本当ではなく、どちらも本当。1+1=2のように、必ず答えが出てくるわけではないのが人間の生活。○か×だけではないのが人生。AIで全てが解決はしない。


連理れんりの枝

 男女の仲がとてもよいこと。もともと別の二本の木がつながって一本の木になること。
 けっこういろんなところに連理の木があるけど、そういう自然の神秘も子どもたちに見せたい。身近なところに連理の木があっても知らないだろう。「灯台もと暗し」ではないが、遠くのことはよく知っていても、身近な日本のこと、近所のことを案外知らない。パワースポットや神秘や「美」は、自分の近くにも案外あるもの。
 「れ」は、江戸では「良薬は口に苦し」。「良薬」のふりがなが「れうやく」だった。上方は「連木れんぎで腹を切る」(できないこと、不可能なこと)だが、子どもたちには「苦い薬」や「すりこぎ(連木)」は理解しにくいだろう。これも時代か。何かいいことわざはないだろうか。


そですり合うも他生たしょうえん

 道で袖が触れ合うだけでも、それは前世の縁があるからだ。「他生たしょう」は、別の世界で生きていること。ここでは「前世」と考えよう。ちょっとえんがあるっていう「多少たしょう」ではない。人と人とのつながりには深いものがあるので、人とのつながりを大切にしよう。
 「すり合う」は、「触れ合う」「すれ合う」ともいう。「袖触れ合うも他生の縁」。「袖すれ合うも他生の縁」。「袖のり合わせも他生の縁」ともいう。なぜかいろいろな言い方がある。一番多く使われるのは「れ合うも他生の縁」と「り合うも他生の縁」だそうだ。


つみにくんで人をにくまず

 罪は悪いが、人間まで否定するな。
 今は不祥事を起こすと再び表舞台に出ることができにくくなっている。人格が全否定される。罪を犯していない神様のような人間はいない。必ず人は罪を重ねている。生き物の命を奪って食事をしているのだから「いただきます」と言う。それが人間。地球の生き物。罪を反省すれば、後は今までどおりつきあえばよい。


ねんには念を入れよ

 「念を入れる」を繰り返す。
 念を入れたつもりでも失敗をする。失敗したらまた反省する。「罪を憎んで人を憎まず」と同じように、失敗したからダメではなく、失敗した後にどう反省するかが大切。失敗をなくすように、念には念を入れなければならない。


なさけは人のためならず

 情けをかけるのは人のためではなく、自分自身のため。かけた情けは自分に返ってくる。
 電車で老人や体調の悪そうな人に席をゆずる。他人のために譲るのではなく、自分がそうなったときにゆずってもらうために、今、席をゆずる。自分がやったよいことは必ず自分に返ってくる。悪いことをすれば、それも自分に返ってくる。そんな理屈を自然と覚え込ませたい。
 「情けをかける(同情する)のは、相手のためにならない。自分で解決させよ」というのはまちがい。


らくあればあり

 楽があれば苦もある。♪人生楽ありゃ苦もあるさ(山上路夫作詞・木下忠司作曲「ああ人生に涙あり」)。
 中国の故事成語に「塞翁さいおうが馬」がある。塞翁の馬が逃げ出し悲しんでいると、その馬が他のすばらしい馬を連れてきたので喜んだ。その馬に乗った息子が落馬して大けがをして悲しんだ。戦争が起こり若者は戦場へ行き死んでいったが、息子はけがをしているので戦争に行かずに助かった。人生には何があるかわからない。そういう話と言葉を知っている日本人は、楽しくてもこの後、苦しみがやってくるだろう。逆に、今は苦しくても楽しいときがやってくるだろう。そう思って生きてきた。コンピュータが全て未来予想してくれるわけではない。


無理むりが通れば道理どうり引っ込む

 無理を通せば道理は通らなくなる。
 「道理」は、物事の正しいすじみち。人として行う正しい道。正論。
 「道理」なんてことを言わなくなった。「正義」という言葉も聞かない。「正義」なんていうと、なぜかわざとらしく聞こえる。けれど正義のない社会を創造するとぞっとする。正しいことは正しいと教えたい。正しいことを正しいといえる子どもを育てたい。


 最初は1回でまとめようと思っていた「ことわざかるた」だが、解説を考えていると、あれも書きたいこれも書きたいと文がどんどん長くなる。それでもあんまり長くなるのも考えものなので、②回目もここでいったん終わる。



 見出し画像の写真はぱくたそからお借りしました。その中で水中写真を撮っているさやかさんの作品です。身近にある海なのに、その美しさ、神秘を知らないことがたくさんあります。身近にあることわざも、その歴史の知恵を知らないことがたくさんあります。もっと海を知ろう。ことわざを知ろう。身の回りにあるものが心を豊かにしてくれるはずです。



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