見出し画像

日本卓球(ニッタク)はなぜ女子選手に人気なのか

Ⅰ 卓球ブランドで人気企業はどこか

本稿では卓球の用品選択に注目し、その消費行動について議論したい。
卓球用品には多様なメーカーがある。卓球用品はメーカーによって特性が異なるため卓球をスポーツとしてプレイしている全ての選手が自分にあったメーカーを探し、利用している。そこでメーカー側がどのようにターゲットを絞ってシェアを広げているのかについて着目してみたい。卓球用品の人気ブランドランキングをRakutenラクマ(2021) で確認すると、次のようになる。

1位 バタフライ(BUTTERFLY)
2位 ニッタク(Nittaku)
3位 ティエスピー(TSP)
4位 ヤサカ(Yasaka)
5位 ミズノ(MIZUNO)
6位  ジュウィック(JUIC)

ランキングを見ればわかるように、1位はバタフライ、2位はニッタクである。卓球をしている私の経験から、1位のバタフライは男子に人気、2位のニッタクは女子に人気ということが分かる。なぜなら私自身、ラケット・ラバーについてはニッタクを使っているためである。私の周りにいる女子の選手もニッタクのラケット・ラバーを好んで使っており、世界レベルの選手も男子がバタフライを使い、女子がニッタクを使う比率が高い傾向がある。本稿ではなぜ性別によってこういった差が生じるのかを検討したい。

Ⅱ 男子と女子の卓球の違い

バタフライは男子に人気、ニッタクは女子に人気ということが分かった。そこで男女による卓球の違いについて議論したい。

スクリーンショット 2021-06-17 10.55.49

卓球ニュース(2020)と吉田ら(2014)によると男女における卓球の違いは「球の質・技術・打点・台との距離・サーブ・展開・スピード」といったところである。表1をみると「球の質」では男子は威力と前進回転が基本である。前進回転をかけるにはラケットを上に大きく振らないといけないが男子は力があるため、多少重たいラケット・ラバーでも力強く振ることができる。それに比べて女子は威力というよりも独特な回転をかけることを基本としている。独特な回転というのは前進回転ではなく横回転や下回転、無回転など様々な方向の回転を混ぜることによって他者との違いを作りながらプレイしている。

「技術」では先程も述べた通り男子は前進回転を基本としている。前進回転をかける方法としてドライブがある。そのためドライブを多く使う傾向がある。女子は力がなく前進回転をかけることが苦手な人が多いため、スマッシュというスピード重視の技術をよく使っている。

「打点」を見ると男子は遅く、女子は早くなっている。これは「台との距離」と関係がある。男子は大きく後ろに下がってドライブをかけることが多いため、台との距離が遠くなる。卓球の用語でいうと後陣という。後陣もしくは真ん中で打つ中陣が多い。台との距離が遠いため球がよく飛ぶラケット・ラバーが必要となる。女子は前陣といって台から近いところで打つ人が多い。攻撃型は基本的には前陣、守備型では上回転を下回転に変えて返球する戦型があり、後ろに下がってプレイをするが後ろといっても基本的には中陣だ。そのため特別球を飛ばすラケットやラバーを使う必要はない。

試合の「展開」に目を向けると男子は1発で決めに行くのに対し女子はラリーが多く続く傾向がある。このため女子選手は軽いラケット・ラバーを使う人が多い。「ペース」に目を向けると男子は速いが女子は速い時と遅い時がある。なぜ女子は速い時と遅い時があるのかについては、粒や表を使って回転を変化させることがあるからだ。

ここで卓球のサーブの特徴について考えてみる。サーブは試合の中で1番重要な技だ。サーブで勝敗が決まる時も多々ある。サーブには打球時にラケットがボールに作用する力の方向を調整する技術が重要となる。この技術は女子と比べて男子の方が優れている。

このことから男子は回転をかけることが得意ということが分かる。そして男子は回転に慣れているため回転だけではあまり差はでない。しかし女子は回転をかけるのが苦手で慣れていないため回転を少しでも多くかけることが出来たら有利となる。このことから女子は回転をかけやすいラケットやラバーを求める。自分で回転をかけることが難しいため、粒高や表ソフトを使いラバーによって回転を変えることのできる用品を使う傾向にある。この粒高や表ソフトで回転を変化させた球は独特な回転を持っており返球することが難しい。球を上に上げることを苦手としている選手には非常に有効だ。

上記のように、卓球というスポーツの性質を考えるとラバーが極めて重要であることがわかる。実際、男子は飛ぶラバー、女子は回転のかけやすいラバー・粒高・表ソフトのラバーを選びやすいということがわかる。

以上を踏まえると、卓球用品について一番重要なものはラバーであることがわかる。ユニフォームは特別メーカーにこだわる必要がない。強いていうなら選手への憧れから世界卓球で使われているものを買う傾向がある。そのため男女による違いはない。また、学校やクラブチーム等の集団でそろえる場合もある。シューズはもちが悪く、買い替えることはあるがこれも男女での違いはない。ピン球も男女による違いはない。それらに比べてラケットは若い人に関しては体格が変わったり戦型が定まって居ないことが多く買い換えることはある。

卓球のラケットはラバーとの相性があるため同じブランドを使う人が多い。男女で比較がしやすい用具としてはラバーが1番である。ラバーは平均2時間の練習を毎日している人で3ヶ月、早い人で1ヶ月程の買い替え頻度である。種類によっては1年間持つものもあるが、ラバーがすり減り回転がかからなくなったり、端が欠けたりする。卓球ではラバーの端が2mm以上欠けていると公式戦に出れないというルールが存在する。またラバーはひとつ1つによって違いが多い。よく飛ぶラバー・スピードが出やすいラバー打球感など違いは様々である。そのため自分に合うラバーを探すのが非常に難しい。また自分に合ったラバーを見つけた場合は無闇に種類を変えない方がいい。自分に合うだけでなくラケットに合うラバーと合わないラバーが存在する。この合う合わないはラバーの性質をかき消してしまったり、反対にラケットやラケットの性質にプラスしてラバーの性質が働きやすくなるものもある。これは実際に使っている選手がいて、その人か強いと安心すると考える。

Ⅲ ラバーを選ぶ基準と選手が求めていること

卓球選手がラバーを選ぶ際に用いる基準として、「好きな選手が使っている」をあげる。実際、スポーツ用品の態度変容については、スポーツ選手の影響が大きいことが知られている (備前・原田、2010)。

スクリーンショット 2021-06-17 10.58.15

上の図はスポーツ選手の魅力を構成する各因子が広告態度や購買意図に及ぼす影響を図示化したものである。スポーツ選手の魅力は身体的な魅力・パーソナリティ・頭脳・迫力の4因子構造で考えられる。この4因子のうち、広告態度に有意な影響を及ぼしていたのは身体的な魅力と迫力であることが分かった。以上の点を踏まえ、バタフライとニッタクが契約を結んでいる選手の魅力について紹介する。

スクリーンショット 2021-06-17 10.59.33

この表から世界でレベルの高い選手やアドバイザー・コーチが使用していることが分かる。世界で活躍している選手の特徴をブランド事に分けてごとに分けてグラフを作った。

スクリーンショット 2021-06-17 11.00.53

このグラフから、バタフライを使用している選手の割合は男子が多く、ニッタクを使用している選手の割合は女子が多いことが分かる。バタフライもニッタクも契約を結んでいる選手は世界ランキングの高い選手である。バタフライの契約選手である張本選手は学研教室のCMにも出演している。張継科や水谷隼は引退が近いため試合に出場しておらず世界ランキングは下がっているが、過去にトップ5に入る実力者である。ニッタクの契約選手である伊藤美誠はバック表を最大限に活かした卓球をしており、「みまバック」と呼ばれる伊藤美誠の武器はまさに表ソフトラバーから生み出されたものである。このように両ブランドとも、広告態度を良くするために身体的な魅力や迫力を持ち合わせた選手とスポンサー契約をしていることがわかる。

バタフライやニッタクが行っているキャンペーンでは、「A選手の使っているラバーを買うとA選手のサイン入りのタオルが貰える」等の選手に関わるものがほとんどだ。また講習会での試し打ちもあるが、試し打ちに使われるラバーは講習会の講師が使っているラバーだ。講習会の講師も基本的には世界選手だ。また○○選手のようになりたいという思いから選手と同じラバーを使っていることもある。ラバーによって打ち方が少しずつ変わってくるため、○○選手のようになりたいという思いがある場合、同じラバーを使うのが妥当だ。選手に関係してない選び方としては周りの人のアドバイスや使いやすさ、自分に合ったラバー、自分が重視したいところに特化したラバー、興味がひかれるか、ネット、他人の評価、お店のPOP、使ってみての研究、メーカーのブランド等が上げられる。ただ、ネットにもPOPにも○○選手が使っていると表記されているものが多い。卓球選手が求めていることとして、自分に合ったもの(プレイのしやすさ)といった質的な欲求、有名な選手が使っているブランド、好きな選手が使っているものといった情緒的な欲求、アドバイザーなどである。世界選手はネットを介してたくさんのアドバイスを私たちに与えてくれている。

卓球ナビ(2021)によるとバタフライのトップ10は裏ソフトラバー10枚に対してニッタクのトップ10は裏ソフトラバー5枚、表・粒ラバー5枚となっている。

このことからニッタクは女子選手がよく使う、表・粒等のラバーも人気となっていることが分かる。このことからバタフライは男性向けのラバーを多く取り扱っており、ニッタクは女性向けのラバーを多く取り扱っていることがわかる。

Ⅳ バタフライとニッタクの特徴と戦略

【バタフライ】
① ラバーの特徴
バタフライは比較的高価格(7,000円程度)でスピード性能・回転機能・コントロール性能の優れていて、ボールを掴みやすくスポンジがバネ(スプリング)のように縮んでボールをはじき出すという攻撃型のラバーを多く扱っている。

② 戦略
ホームページでは契約選手の使っているラケット・ラバーを紹介し、その他にお勧めラバーの組み合わせを理由と共に掲載している。これには契約選手のコメント付きだ。ラバーの紹介動画もある。またラバーを選択すると比較してくれるサービスがある。

③ バタフライ独自のサービス
初心者向けコンテンツという「これから卓球を始めようとする人向けに卓球の初心者ガイド」と元チャンピオンが用具選びのポイントを解説してくれるサービスもある。

④ イベント
世界選手権が国を超えてそれぞれのチームに参加し、野球のようにたくさんの場所で団体戦をするTリーグのライブ配信や講習会、フォロー&RTでサイングッズプレゼントや動画投稿キャンペーン(○○回転のサーブなどといったお題)を行い、選手が選考するといったイベントがある。

【ニッタク】
① ラバーの特徴
ニッタクは4,000円を基本としており、バタフライより価格は安くなっている,ラバーの特徴としては裏ソフトだとテンション系を多く扱っている。表や粒高も多く扱っているため男子でも女子でも利用しやすい。

② 戦略
ラバーは種類(裏・表等)でわかれていてとても見やすくなっている。ラバーの特性(回転系・テンション系等)まで絞って選べるようになっているのでラバーを迷っている人には嬉しいサービスである。NittakuNewsというものを定期的に出版しておりニッタクの最新情報が入手しやすくなっている。

③ ニッタク独自のサービス
ニッタク卓球教室もある。卓球バレーという卓球台を使った独自の競技で障がい者卓球を推進している。ビギナーズコーナーでは卓球についての持ち方等の基本的なところから教えてくれるコーナーもある。TaKuSuKuという卓球を遊ぶ・学ぶどちらでも楽しめる卓球スペースも用意されている。アドバイザリースタッフもいるため、卓球に関して様々なサービスがある。Newsは4つ(ALL・INFO・MEDIA・RESULTS)に分けて見ることができるため、自分の見たいNewsが探しやすくなっている。

④ イベント
大会記念Tシャツ(全日本・全日本レディース)の販売、ジャパーンOPの記念グッズの販売やアンケートに応えると馬龍のサイン入りラケットが当たるキャンペーン、ニッタクブースに世界選手が来たり、ライブイベント(FAKEMYTION卓球の王将)や講習会がある。特にニッタクで特徴的なイベントが、ボール検査機体験とラケットを作るところを見学できる所だ。ボール検査は世界卓球など大きな大会になると使うピン球を検査で選ぶことになっている。このように普段はできないこと知れないことのできるイベントは魅力的である。また、「先着でいいことあります!」や「大きなボールが目印です」といったような目を引くタイトルでホームページに掲載されている所も見る人の目を引くと考える。アンケートに応えるとオリジナルステッカー(日本人選手と中国人選手)が当たり、このステッカーにはその選手が使っているラバーも分かるようになっている。

上記のイベントを見るとラバーを売る戦略やイベントに世界卓球が大きく関与していることがわかる。ちなみにホームページにバタフライは世界選手を1人だけ表示しスクロールすると表示されるようになっている。ニッタクは時間が経つと画面が変わってたくさんの選手が表示されるようになっている。このように契約選手についてバタフライもニッタクも題材的に扱っている。

Ⅴ 最後に

卓球用品人気ブランドランキングの1位はバタフライ、2位はニッタクで、バタフライは男子に人気、ニッタクは女子に人気である。このような差が生じる理由としてラバーの違いに注目することができる。男子と女子の卓球の違い、男子は攻撃型ラバー、女子は異質ラバーを使うことが多い。ラバーの人気ランキングをみるとバタフライは攻撃型ラバーが人気となっており、ニッタクは異質系ラバーが人気であることがわかった。ラバーはラケットとの組み合わせによってラバーの性質が上手働かない場合がある。そのため、プロの選手が使っているラバーを使うと安心する。そこで先行研究をレビューし、スポーツ選手が購買行動に影響するかを調べた結果、身体的な魅力や迫力が効果的であることが見られた。そこでバタフライとニッタクの契約選手をみると両社ともレベルの高いスポーツ選手と契約を結んでいることが分かる。その上でバタフライは男子選手と多く契約を結んでおり、その中に世界ランキングが日本の中で最も高い張本選手もいる。ニッタクは女子選手と多く契約を結んでおり、その中に世界ランキングが日本の中で最も高い伊藤選手がいることが明らかになった。さらに、世界選手を使ったプロモーションを多く活用している。ニッタクではレディースの大会記念Tシャツも販売している。このことからニッタクは女子選手と多く契約を結んでいるため、女子に人気がある。

参考文献

備前嘉文,原田宗彦(2010)「スポーツ選手が消費者の購買行動に及ぼす影響:」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsm/2/1/2_1_19/_pdf/-char/en

吉田和人,山田耕司,玉城将,内藤久士,加賀勝(2014) 「卓球におけるワールドクラス選手のサービス回転数」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/59/1/59_13068/_pdf

Rakutenラクマ(2021) 「卓球人気ブランドランキング」
https://fril.jp/ranking/category/1636 2021.06.07

VICTAS Inc.(2021) 「最新 世界ランキング 国際卓球連盟(ITTF)発表」
https://www.victas.com/ja_jp/journal/world-ranking/wr-men 2021.06.03

卓球ナビ(2021) 「ニッタクラバー」
https://takkyu-navi.jp/rubber/search/3 2021.06.05

卓球ナビ(2021) 「バタフライラバー」
https://takkyu-navi.jp/rubber/search/1 2021.06.05

卓球ニュース(2020) 「卓球の見方は5分で変わる(7)異性の打球への対応が鍵 ミックスダブルス」
https://rallys.online/read/mikata-mix/ 2021.05.27

ニッタクホームページ NIPPON TAKKYU Co.,Ltd.
https://www.nittaku.com/ 2021.06.10

バタフライホームページ Tamasu Co., Ltd.
https://www.butterfly.co.jp 2021.06.10

いいね、フォローしてくれると学生のやる気につながります