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「非弁護人」(俺の読書日記6)

法曹界のブラック・ジャック

「非弁護人」月村了衛(徳間文庫)は、元検察官が主人公の小説である。この主人公が弁護士の資格も取らず、エセ弁護士として裏社会のネットワークを利用しながらさらなる悪を追い詰める、というのが話の内容である。
元検察官というだけあって弁護士資格も取れるはずだが、主人公は法曹界の裏側で暗躍する方を選び、暴力団のために仕事をしたりもする。作者曰く、法曹界のブラック・ジャックとのことで、全体的にふざけた感じもユーモアもない、なかなかにハードボイルドな作品である。

ヤクザ喰い

そんな主人公は裏社会の住人でありながら、悪人というわけでもなさそうである。もともと暴力団の味方ともいえるが、この小説では元暴力団員や社会的弱者を食いものにして金を生む最低最悪な人間(=ヤクザ喰い)を追い詰める。被害者の中には出稼ぎ外国人のような人物もいて、その子供のために一肌脱ぐような人間味が主人公にはある。

簡単な内容の紹介

ストーリーの前半は捜査パート、後半は裁判パートで、小説全体として飽きさせないリーガルサスペンスとなっている。
後半の裁判は裁判員裁判で、最近の小説として時代に沿っている。証人尋問の場面も多いが、テレビドラマのようにあまりに自由なやりとりにはなっておらず、実際の裁判にも近い描写になっているように思う。テレビドラマなどでは面白くなるように、自由すぎる裁判風景が一般に描かれるが、ともすれば何を意図した質問なのかが分かり難かったり(専門家である当事者や裁判官が分かればよい)、ルールが多くて堅苦しいのが実際の裁判である。この小説ではその辺りのことが考えられているようで、実際に近い緊張感もある一方、説明もきちんとされているので、小説として分かり難いわけではない。

お薦めの読者層

まず、法曹界に興味のある人にはお勧めである。検察の闇のようなものから、裁判の進め方など、勉強になるような場面も多い。
次に、サスペンスとしても面白いので、推理小説好きにもお薦めである。ヤクザ喰いというテーマも興味深く、そのヤクザ喰いがあまりに狡猾なので、それをどのようにして追い詰めてゆくかという点が全体を通して楽しめる。

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