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『行程』

 今日は休みだ。

 朝7時、外に出ると冷たい空気の匂いが鼻の奥に刺し込んできた。

 僕にとって早起きをして運転するということは、何も苦ではない。一人きりの車内も快適なものだ。

 お気に入りのBGMをランダム再生し、高速道路をひた走る。長く緩やかな上り坂では速度が落ちないよう、ぐっとアクセルを踏み込み目的地へ急ぐ。

 インターチェンジを降り、上り坂ばかりの住宅街を進む。走り疲れたであろう車に、最後のムチを入れ、小躍りする気持ちと共に走る。
 
 坂を登りきり、海が見える頃、目的地に到着する。今日も彼女が待っている。

「おはよう。」
 
 
 

  ◆(⇅対義語)
 
 
 
 

「さよなら。」

 手を振る彼女は逆光でよく見えなかった。彼女のアパートから離れると、視界の海が小さくなっていく。

 住宅街を抜ける下り坂を、ブレーキのコントロールだけでゆっくりと進む。インターチェンジをくぐり、ハンドルをぽんぽんと叩く、その軽い音みたいに僕の心は少しずつ空虚になっていく。

 先程まで二人で聞いていたBGMの続きがスピーカーから流れている。リピート再生に設定して、高速道路の左車線だけをゆっくりと走る。
 
 2日間の疲れと長距離運転が僕を眠りに誘う。助手席の足元のゴミ箱には、ファストフードの袋が丸めて押し込んである。
 
 午後7時、部屋に帰ると彼女の声が耳の奥だけでこだましていた。

 明日から仕事だ。
 
 
 
(おしまい)

 以下の企画に参加してます。

お話を書く方がいろんなパターンで対義語を表現してたので、僕のもまあ、ルール違反ではないと思って…

(行き道)

(帰り道)

僕の書いた文章を少しでも追っていただけたのなら、僕は嬉しいです。