『古書店における自由研究』
「自由研究よ」
深夜帯にだけ開店する古書店の一角、古びた本棚の脇に寄りかかり、彼女は小さく三角座りをしたまま顔を上げて答えた。日に焼けた本に人差し指を挟んで持ったあと、もう一方の手で黒髪を耳にかけて僕を見上げている。
「カポーティの短編集を読むのが君の自由研究?」
「そう。自由研究よ」
僕はヘミングウェイしか読んだことがなくて、彼女の言う“自由研究”がどのようなものなのか聞けるほどの知識がない。ゆるんだTシャツを着た彼女の首元に汗の雫は無いが、数本の黒髪が蛇行して貼り付い