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『分水嶺』

※このお話は、ただただ下品な妄想をするだけの高校生男子二人を描いたものです。ご了承いただける方のみ、お進みください。








『分水嶺』


「なあ、分水嶺って知ってるか?」
「へ? 知ってるけど」
「じゃあ、分水嶺ってなにか説明してみろよ」
「あ? なんか、その、例えば中国山地の真ん中あたりにあるこの町には分水嶺地点ってのがあるだろ? で、水は分水嶺を隔てて北は江の川から日本海へ、南は太田川から瀬戸内海へ流れてく。この南北に分かれる水系の分水界になってる、山の稜線みたいな場所を分水嶺って言うんだろ?」
「合ってる」
「んん」
「じゃあ、俺らがした小便はどこへ流れて行くんだ?」
「下水道だろ」
「いや、分からんぜ? 下水道なんてものは俺らの見えない地下に張り巡らされてるわけだ。そしたらだよ? 下水道も分水嶺と同じように、北と南に繋がってるかもしれない」
「まあ、僕は下水道の造りについて詳しくないけど。水と同じように、どっちかに流れるだろうな」
「だろ?」
「んん。ん? で?」
「は? いやいやいや、一大事だろ! 俺らがこの町で使うトイレの場所によって、小便の行方が北か南に分かれるかもしれないんだぞ!」
「分かるけど、一大事ではないだろ」
「いやいやいや、一大事だね。俺らの小便はどうでもいいんだけど、陽子ちゃんのおしっこだってそうだろ? 北か南、どちらにも流れる可能性があるんだぞ?」
「だから?」
「いやいやいや、一大事じゃないか。陽子ちゃんのおしっこだけじゃない。陽子ちゃんが使った風呂のお湯だって、北か南か、どっちへ行くか分からないんだぞ?」
「いや、陽子ちゃんの家は下山田にあるから、明らかに町の南側にあるし、下山田周辺に流れてる支流は太田川に繋がってるだろ? だから瀬戸内海に流れる確率が高いと思う」
「お、そうか。お前、頭いいな」
「ん。まあ、憶測だけど」
「よし、決めたぞ! 俺は瀬戸灘大学に行く。そしたら、陽子ちゃんの使ったお湯が……陽子ちゃんのおしっこが……」
「いや、陽子ちゃんは東京の大学受けるって言ってたぞ」
「は? 俺はそんなの聞いてないぞ! じゃあ、どうしろってんだ!」
「東京なら太平洋だな。だから、お前も東京に出るか、あるいは太平洋側のどこかの大学に行けばいいじゃん。太平洋に面してる県なんてたくさんあるし」
「おおー、そうか。俺の進学先の候補はたくさんあるということか」
「勉強すればな。──なあ、そもそもどこの川も行き着く先は同じ海じゃないか?」
「ああ……」
「〈ああ……〉じゃえねよ。受け入れろよ」
「いや、違うね。違う違う。希釈加減が違うだろう。陽子ちゃん成分が0.1%なのか、0.01%なのか、場所によって違うはずだ」
「んん。割合はもっと少ないだろうけど、まあ、希釈加減が違うのはそのとおりだと思う。てかさ、陽子ちゃん成分の入った海水を、お前はどうしたいわけ?」
「え? あ、特に考えてなかった。俺は陽子ちゃんに関するモノの近くにいれればいいと……俺なんてそれくらいで十分なんだと……」
「はあ。じゃあ、もう海水が蒸発して降った雨はお前にとっては陽子ちゃんだな」
「おお! そうか! お前頭いいな! 俺はどこに行っても陽子ちゃんに抱かれて生きれるってことだな! そして今も、陽子ちゃんに抱かれているわけだな!──おお、雨よ! 陽子ちゃんよ!」
「お前は幸せものだな。
 じゃあさ、逆にだよ、お前が分水嶺地点で小便して来いよ。北と南にお前の小便を流せば、お前が陽子ちゃんを抱くのと同じって理屈だろ?」
「おお。それは妙案だ。
 そういえば、いい事を教えてやる。俺の小便は2つ分かれするツーウェイ式なんだ! いわば二刀流小便ってわけだな。だから、俺が分水嶺地点で小便すれば一回で二つの海を制覇できる!」
「いや、知るかよ。見たことないし。
 ところでさ、僕は陽子ちゃんと同じ大学が第一志望だから。模試の結果的に言うと、たぶん僕も陽子ちゃんも、なんとかなりそうだよ」
「え?」
「んん」
「おい。俺は怒ったぞ。今からお前の頭に小便をかけてやる! そしたらもうお前は俺に抱かれてるのと同じだ! 俺に抱かれてしまえ!」
「ああ、分かったから、つべこべ言ってないで勉強すればいいじゃん。目的は陽子ちゃんでも海でも何でもいいから」
「やだ、俺は勉強は嫌いだ」
「じゃあ、一つ言っておくよ。僕は理系だから、文学部志望の陽子ちゃんとは別のキャンパスだ。お前は文系だろ? なら同じキャンパスに通える可能性があるぞ」
「お。まじか、お前頭いいな。そしたら、俺の方がより近くで陽子ちゃんを抱けるということか」
「そうなるな」
「分かった! 今すぐ陽子ちゃん抱いてくる!」
「は!? 待て、早まるな!!」

──全く、論理もクソも無いな。
 そういえば思い出したけど、陽子ちゃんの家は町のはずれにあるから、あの辺りは浄化槽だったよな……まあ、いいか、これは伝えないでおこう。
 下水からそのまま流れていようが、浄化槽の中で浄化されてから流れていようが希釈具合は関係ない。彼にとっては川が、海が、世界が陽子ちゃんなのだから。









(おしまい)

僕の書いた文章を少しでも追っていただけたのなら、僕は嬉しいです。