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なぜオランダではゾーニングがいらないのか

先日、オランダの首都アムステルダムへ旅行に行ってきた。初めてのオランダ、「世界一リベラル」ともいわれる国がそこにはあった。

飾り窓と性産業というもの

アムステルダムといえば「飾り窓」だ。

飾り窓とはオランダ、ドイツ、ベルギーなどのゲルマン諸国、またそこから伝播して地中海 側でも見られる(見られた)売春の一形態、またはその施設。オランダ語では"nl:Raamprostitutie"と呼び、直訳すれば「窓売春」である。(Wikipediaより)

簡単にいうと、下着姿のセックスワーカーがショーウィンドウのように並んでおり、外から窓の中にいる女性を見ることが出来る(そして金銭を支払えば性サービスを受けることが出来る)。というものである。

※ちなみに窓内にワーカーがいる際は写真撮影は禁止されている。よってここには写真は貼らない(撮っていないので)が、ネットを検索するとたくさん出てくる。圧倒的にマナー違反である。

このいわゆる売春が”合法”である、というのは割と有名だと思うが、私が実際にアムステルダムに行って驚いたのは、そのオープンさ、そしてゾーニングの欠如である。

外から丸見え、つまり客以外の通行人にも丸見え(接客中は除く)なわけだから、当然ある程度表通りを離れた歓楽街にあるのだろう…というイメージだったが、実際には街中のそこかしこに窓は存在していて、住民の生活圏とごく自然に混ざり合っていた。

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セックスワーカーの像。後ろに見えるのは街の中心部にある旧教会である。売春とはかけ離れたイメージであるキリスト教の教会の前にセックスワーカーを讃える像を飾るこの倫理観の離れ業。ちなみにこの教会の周囲にはずらっと飾り窓が並んでいる。

また、ある場所では飾り窓と窓の間になんと保育園があった。もちろん営業中であり、その日も仕事帰りの両親が子どもを迎えるため出入りしていた様子が見られた。

日本におけるゾーニング論争との違い

ちなみにアムステルダムには飾り窓だけではなく、セックストイやコンドーム(色や形、サイズなど様々でオーダーメイドまで出来るらしい)などを取り扱うセックスショップが立ち並んでいる。こちらももちろん隔離などされているわけもなく、コーヒーショップ(大麻が吸える店)、ケーキ屋さん、お土産屋さんあたりの間にドンと構えている様相である。ショーウィンドウから中身が丸見えで、開けっ広げすぎていやらしい印象も受けないほどだ。中はカップルや若者でにぎわっていた。

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私は理論を学んだことはないがメンタル的にはフェミニストだと思っている。ここ最近ネットをにぎわす衝突のキーポイントになるゾーニングについては、肯定的に捉えていた。

一方で、アムステルダムという街を歩くと、その一種混沌とした景観が心地よく感じられた自分にも驚いた。

問題は、「性的なものとの距離」だけではないのではないか


違いは”主体”であるかどうか

実は近年、このアムステルダムの売春を法規制しようという署名がおこなわれたそうだ。

その理由を以下に抜粋する。

「もしこれが現実になったら、セックスワーカーは違法に働くことになる。つまり私たちは暴力の被害者になる可能性が高くなる。客側は私たちが警察に相談しに行けないと分っているから、私たちの負うリスクは増大してしまう。客はコンドームを付けたがらなくなり、私たちはHIVウイルスに感染するリスクが高まることになる。実際に北欧モデルを始めたフランスで起きたように」

もちろん、女性がセックスワーカーにならざるを得ない社会的な理由はあり、より安全な仕事を選ぶことが出来るようその問題は解決されるべきであると思う。一方で、売春を合法としていることで、主体的にセックスワークという職業を選んだ女性たちの権利や安全は担保されるようになる。そしてそれはきっと、彼女たちの尊厳も守ることになる。

私が見た窓の中の女性たちは、この仕事を選んだ経緯こそわからないまでも、とても美しく、そしてかっこよく見えた。男性に媚びているというよりは、圧倒的に自立している印象を受けた。

これが、もしかしたらゾーニングを行わなくても良い理由なのではないだろうか。

消費される客体ではなく権利を持ち法で保護された主体である。やはり、日本ではゾーニングはしばらく必要なのかもしれない。


【ちなみに】

私が参加したグループツアーは禁止になったそうだ。近隣住民への配慮だけでなく、セックスワーカーを盗撮から守るため・客の足を遠のかせないようにするためだそうだ。ここでもちゃんと守られるセックスワーカーたち。さすがです。観光の際はお近くのミュージアムへどうぞ。


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