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「おかしい」

 これ、中学校の時の話なんですけど。

 私の学校は山を一つ越えたところにあって、大体の人が自転車か車通学だったんですよ。私も例にもれず、自転車通でした。家から学校まで4キロ近くあって、毎日毎日山を一つ越えて走るのはとても大変だったのを覚えています。
 私三年間帰宅部だったので普段の帰りは早いほうだったんですよ。なんでいつもは明るいうちに家まで帰れるんですけど、その時は文化祭の準備に夢中になちゃって、学校を出るころには辺りはすっかり暗くなっていたんです。それで、一緒に準備してた友達と一緒に帰ったんです。その友達は途中で帰路が変わるので、そのあとは2キロくらい一人で帰らなきゃいけないんです。暗いし怖いから学校出るときには親に迎えに来てもらおうかななんて思ってたんですけど、親がちょうど仕事だったもので、仕方なく自転車で帰ることにしました。そして友達と別れた後、真っ暗な道を一人で歩いていたんです。結構きつい上り坂なので、その時は自転車を押してとぼとぼと歩いていました。田舎なものですから、街灯も少なく車の通りもほとんどありません。国道を歩いてるとは言え、歩道のすぐ隣は森やら林ですから、常に何かの動物が現れるんじゃないかって、ドキドキしながら歩いてました。

 家まであと1キロくらいだったでしょうか。国道から旧道に入るY字があって、私の家は旧道側だったので、もっと灯りの少ない道に進んでいきました。その道が変わる近くに、森に続く林道があるんです。その林道沿いにはいくつか建物があって、一番手前には「明〇苑」っていうなんかのお店があって、まぁ、それも開業してるかどうかすら怪しい建物なんですけど。そのちょっと後ろに、ブルーシートみたいなボロ切で覆われた、廃墟みたいな建物があったんですよ。廃墟なのかな?人が住んでるような感じの建物ではなかったんです。(サムネの写真が実際のものです)

 その林道沿いの廃墟の前に、お爺さんが立ってたんです。いや、田舎ですからお爺さんがそこら辺にいたって私は驚きませんが、そのお爺さんは「変」だったんですよ。ホームレスっぽいとか、小汚いとか、そういうのじゃなくってなんかバランスがおかしいんですよね。服装がちぐはぐとかのバランスじゃなくって、体のバランスが。人間足が長いとか、背が高いとか、顔がちょっと大きいとかはある程度あるのかもしれないんですけど、そのお爺さんはなんか、バランスがおかしいんですよ。遠近法が狂ってるみたいな、それでいて手足の長さと胴体のバランスがちょっと普通じゃ考えられない形なんですよね。私思わず「えっ?」って口にしちゃって。街灯の光がうっすらと届くくらいの場所だったんで、最初私の見間違いかな?影がそういう風に見えたのかな?って思ったんですけど、じっと見れば見る程、その頓珍漢な体のバランスが怖くなっていくんですよ。そのお爺さん、そこから微動だにせずに、ずっと立ってるんです。さすがに中学生の私でも「あ、これちょっと危ないかも?」って気づいて、自転車にまたがって漕ぎたしたんです。その直後くらいですかね。背後で


「お前今おかしいって!!!!!変だって思っただろ!!!!!!!!」


 男の人の怒号がしたんです。完全にあのお爺さんだって理解しました。怖くて怖くて、私は後ろを振り向きもせず、立ち漕ぎで全速力で坂を上っていきました。そこからはもうがむしゃらでしたから、あんまり覚えていません。でもあのお爺さんは追いかけてきたりはしませんでした。私はあの日から、旧道を通るときは友達と一緒のときか、一人の時は国道から遠回りして家に帰るかにしました。いまだにあれが何だったのか、あのお爺さんは廃墟の住人なのか。なにもわかりません。




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