綺麗な人
散歩をしていると、
藍色の着物を着た人がやってきて、私に尋ねた。
「そこのあなた、私、行きたいところがあるの。
連れていってくれない?」
それはどこだと聞いたが、どうもわからないらしい。
私は首を傾げつつ、歩き始めた。
行く途中は、他愛のない話をした。
この街のこと、好きなこと、家族のこと…
でも、彼女は、私に何も語らなかった。
私の話を聞いて、楽しそうに頷くだけ。
何か事情があるのだろう、とは思うけれど
やっぱり聞きたくて、聞いてしまった。
「何処から来たんですか」
彼女は目を伏せた。
「何処でもないところよ」
少しの沈黙。
「さぁ、続きを聞かせてちょうだい?」
何時間歩いただろう。
結局、日が暮れるまでその行きたいところには辿り着けなかった。
謝ると、彼女は
「きっと私、あなたと過ごす時間を求めていたのよ」
と言った。
私にはそれがよく分からなくて、
聞こうとしたら
彼女は消えていた。
とても綺麗な人だった。