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「今、何してるの?」から始まった再会。

今から20年以上前の
小学校時代の友人を、
飲みに誘ってみた。


私が小1の頃、
転校して入学した学校で、
最初にできた「友達」だった。


一緒に学校に行って、
一緒に家に帰って、
たまに一緒に遊ぶ。


よくある「小学校の友達像」そのもののような関係。


彼の家でゲームキューブの「ピクミン2」をやった時、
私に1Pのリモコンを渡してくれたのを、
なぜか今でも鮮明に覚えている。


中学校を卒業して、
別々の高校に行って、
別々の大学に行って、
「大都会」と呼ばれる場所で再び合流した私たち。


10年という歳月を経て、
どんな話をするだろうか。


昔の思い出話や、
嫌いだった先生のこと。


思春期当時に抱いていた悩みも、
今ではいい酒の肴になるかも知れない。


想像してはワクワクで、
当日までは眠れない夜が続いた。


土曜日18時。
都内、某居酒屋。


五分前に到着した僕に、
「ちょっと遅れる」と連絡をくれた彼は、
待ち合わせ時間を十分ほど過ぎてやってきた。


予め聞いて注文しておいた
飲み物が届くなり乾杯し、
挨拶もそこそこに彼は切り出した。


「…で今、何してるの?」


「うん、なんとか元気でやっているよ。」
私は答えた。


「いや、"仕事"の話。」
そう返された。


「最近毎日飲み会で辛いんよね」とちびちびジョッキを煽る彼は、
誰もが知っている大手銀行に勤めていると話してくれた。

昔から勉強ができて、
話も面白くて、
学級代表まで勤めた。
クラスの人気者。

そんな彼が、
今でも広大な社会で立派にやっている様で、
なんだか少し誇らしかった。

そんな私の想像を遮るように、

「てか、いきなり連絡来たからマルチかなんかの勧誘だよね?いいよ、話だけでも聞かせてよ。」

と彼は笑いながら言った。


色々な話を聞かせてくれた。

仕事終わりに同僚とよく行くキャバクラの話、

地元に帰ったら行くべきおすすめの夜の店の話、

最近、駅前でナンパしたときの話。


「そろそろ結婚考えないとなぁ」
と言いながら
見せてくれた彼女の写真は、
少しぼやけた加工の施された、
ディズニーランドで撮ったものだった。


それを片手で私に向けながら、
「てか、あそこに座ってる女の子、めちゃくちゃ可愛くない?」
と、奥の方に視線を飛ばしていた。


そんな感じで1時間も話した後、

「ごめん、次の飲みの誘い来たから行くわ」
と彼は席を立った。


飲みが始まってから
しきりに携帯を見ていたのは、
そのやり取りをしていたからなのだと知る。


夜19時半。
駅までの道を速足で向かう彼の隣で、
何を言おうか、必死に言葉を探していた。


多分、彼とはもう会えない気がする。
なんとなく、そんな確信があった。


何か、伝えるべきことがあるのではないか。
私は逡巡した。


「そいえばあの時一緒にやったゲームの事だけど─」
も、なんか違う。


「昔よく遊んだ公園、最近駐車場になったらしい─」
という話も、場違いな気がして。


「昔同じ娘好きになっちゃったよね~」なんて話を、
今更してもなと躊躇ってしまい…



結局何も見つけられず時間切れ。


駅の改札の前で
「今日も終電無理そうだな…」と呟く彼に、


「忙しい中ありがとう。じゃあ、元気で。」と
100点中3点未満な事しか言えなかった。

「うん。じゃあ」と一言だけ返して
改札を抜けていく彼の、

振り返ることなく進む後ろ姿を、
軈て人混みで見えなくなるまで
眺める途もなく眺めていた。


時の流れの力は偉大だ。


私たちが数年、
それぞれの道を進んでいた間。


ずっとずっと


同じ国で暮らしているけれど。
同じ言語を使って話しているけれど。
同じ法律の下で過ごしているけれど。


よくよく個人を観察すると、
誰一人として同じことはなく、

それぞれが
違う世界に暮らし、
違う言葉を使って話し、
違う価値観で生きていることを教えてくれた。


大切な学びをくれた彼との再会。

きっと私は、最後にこう言うべきだったのだ。

「ありがとう。これからもどうか幸せに、生きていてね。」


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