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二人旅の断片 -2-

2024年5月5日。

今年70歳を迎える祖母と二人で小旅行をした。

その旅の断片的な記録を、ここに残しておくことにする。



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16:10-16:20 p.m.

街を一通り散策した僕らが、最初に降り立った駅に戻って来たのは、16時を少し回った頃だった。

「この後どうする?」

駅に入って真正面にある白い時計をみながら、隣に立つ祖母にお伺いを立てた。

すでに指定席券を購入した帰りの列車が来るのは、19時30分。

それまでたっぷり3時間はある。

祖母は、僕に列車の時間を確認した上で、

「どうしたらいいかな?」

と、聞き返してきた。

彼女の言葉は「好きに時間の使い方を考えていいよ」という僕への優しさではなく、「特に行きたい場所もやりたいこともなくて、どう時間を潰してよいか分からない」という不安から出たものに聞こえた。

この街の観光スポットらしい観光スポットを巡り終えてここに辿り着いたのだから、明確な返答ができないのも無理はない。

「どうしようかなー」

と呟いて、再び白い大きな時計をみる。

列車が来るまでには、やはり長編の映画が一本観れるくらいの時間があった。

とはいえ、朝9時半から歩き続けて疲労が溜まったこの身体でまた街に繰り出すのは、そんなに気が乗らない。

でも、折角の旅行先で長時間を駅で過ごすことには、映画館で映画を観るのにポップコーンを注文しないような、もったいないなさがあるような気がして・・・。

そんな葛藤を抱えながら、僕らは結局駅を出た。

祖母の提案で、駅に一番近い三叉路を、朝とは違って左に進んでみることにした。

この先には、どんなモノがあるのだろうか。

春の柔らかな空の水色に、ほんのりと橙色が混じりはじめている。

11:20-11:30 a.m.

街の一大観光スポットである科学館を出た僕らは、市街地の方向に向かって歩を進めている。

今歩いている道と並行して長く、遠く、一直線に伸びる車道は、車線と車の多さをみるに、おそらく国道。

対して、この歩道にはたいして通行人がいない。

その上、道幅が広いとあれば、二人横に並んで闊歩することができる。

車道の反対側、進行方向の左手には木々の茂った公園が点在しており、落ち着いた雰囲気の街並みを演出している。

一歩、二歩と進むごとに、目印にしているイオンのあのピンクの看板が、徐々に確実に近づく。

ランドマークの数百メートル手前で、ある公園に入ってみることにした。

青々と茂る植物たち。

見渡す限りの緑の中に身を置くと、不思議と別の世界に飛ばされた気分になる。

公園を突っ切るようにして進んでいくと、道路を挟んで向かい側に大きな建物が現れた。

まるで、ジャングルを抜けた先にある巨大遺跡のように、どっしりとした佇まいをした建造物。

祖母のスマホで調べてみると、それは市役所だと分かった。

「うちの市の役所より立派なんじゃない」という祖母に、「県庁よりも立派かもね」なんて返しつつ、建物の方に向かっていく。

僕らは、小休憩も兼ねて、立派な建物に入館してみることに決めた。

around 8:30 a.m.

プラットフォームに繋がる短い階段を下りきるのとほぼ同時に、列車が到着した。

ドアが開くと、ぞろぞろと乗客が降りてくる。近くの高校の生徒と思しき子らが、大半を占めていた。

僕らの乗る列車は、これではない。

しばらくしてドアは閉まり、僕らの行き先の反対方面へと動いていった。

その数分後、先ほど電車が消えていった方向から、何かが近づいてくるのがみえた。

あれだ。

あわててポケットからスマホを取り出して、カメラを起動。

動画撮影モードにして、その何かにスマホを向けた。

少しずつ大きくなっていく被写体こそが、今日僕らが乗る列車だ。

プラットフォームに入ってくるかこないかのタイミングで、動画を止め、財布に保管していた指定席券を取り出した。

4両編成の3両目。

3列目のCとD。

手元の切符と列車のボディに書かれた車両番号とを慎重に照らし合わせながら、祖母と列車に乗り込んだ。

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