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九死に一生を得た話

3月某日の昼下がり。知人に荷物を送るため、自宅から数キロ離れた郵便局へ徒歩で向かうことにした。別に急ぎの用ではないのだが、こういうのは思い立ったが吉日。後で面倒くさくならないように、早めに済ましておくのがベストだ。

自宅を出ると、数日続いた雨が幻だったかのような晴天で、春の柔らかい陽射しが地面に注いでいた。我が家の側の国道沿いの歩道は道幅が広く、両手に大きな荷物をもった僕のような人間にとっては、非常に親切な設計となっている。

郵便局への道中、横断歩道に差し掛かった。赤信号だ。信号が青になるまで、しばらく待つ。

こうやって信号待ちをしていると、ふと交通安全教室を思い出すことがある。学校に警察官がやってきて、交通ルールを教えるアレだ。最初の交通安全教室に警察官たちが現れたときには、「犯人を逮捕する正義のヒーローってこんな仕事もするんだ」と、子どもながらに思ったものだ。

交通安全教室で学ぶ内容は学年によって異なるが、低学年の児童は主に歩行時の交通マナーを教えられる。「横断歩道は右、左、右を確認して、手を挙げながら渡る」というのは基本のキで、「車は急に止まれない」という七五調のフレーズも繰り返し提示された記憶がある。自分が通った小学校では、説明を聞いたあとに、学校前の横断歩道を実際に渡ってみる時間もとられていた。この実践的な講習の内容は全く覚えていないのだが、昔の学校通信にはその時の様子がはっきりと写っている。

ぼんやりと思い出にふけりながら車側の信号を眺めていると、緑色が黄色に、黄色が赤色に変わった。目の前の歩行者用信号機に目を移し、青になるタイミングを伺う。ほどなくして、赤色が緑色に変わった。

白線に足をもっていく前に、その場で右に目を向ける。黒い車が減速しながら、ゆっくりとこちら側に近づいていた。左前方に視線を移すと、車はずっと向こうに見えた。よし、大丈夫そうだ。右、左、右と確認することは、歩行者の心得の1つである。右の車を見やったまま、足を道路へと踏み出た。

歩きながら左に目を移すと、さっきよりも近くに車が見えた。が、スピードを緩めている感じがしない。おかしい。車がだんだんと大きくなってくる。減速する様子のない車に、僕の方が減速して横断歩道のちょうど真ん中で立ち止まった。すると、その数秒後。例の車が、僕の前を勢いよく横切った。目の前の信号機が赤であることなんかまるで気づいていない様子で、颯爽と横切ったのである。急いで残りを渡り切った頃には、心臓の音がバクバクと鳴っていた。

横断歩道を渡りきるなんて、たっと10秒くらいしかからないけれど、この時ばかりはやけに長く感じられた。何があるか分からない世の中であるのを痛感するとともに、学校での学びもバカにならないなと思い知らされた。

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