僕の「電カル」奮闘記 ~エピローグ~

一応の謝罪を引き出すことはできましたが、富士通からの回答書の内容は心から納得できるものではありませんでした。

それでも、この2018年7月31日付けの回答書をもって、僕はこの7年間に及んだ富士通との「戦い」に区切りをつけることにしました。富士通に非を認めさせるには、あまりにも材料不足だと痛感したからです。

そこで、最後に反省点をつづって、「僕の『電カル』奮闘記」をしめたいと思います。

まず、何よりの僕の失敗は、富士通とのやりとりを記録に残しておかなかったということです。

富士通の技術者は、定例会で「一体型になるまでの間、保守料の請求はしない」と繰り返し言っていました。それはベンダーのSEも認めています。でも、書面で残っているのは「プログラム障害による(…中略…)不具合が無くなるまで……」という文言で、回答書でも富士通はこれを盾に、保守料請求を翻した自らの態度を肯定していました。

まさか、これほど話がこじれることになると思っていなかった僕は、富士通の担当者とのやり取りをほとんど記録していませんでした。「いつ、誰と会ったのか」「誰が承認したことなのか」といった議事録を残しておくべきでした。議事録が無理でも、録音やメモを残したり、定例会後にメールで確認したりすれば、状況は変わっていたかもしれません。

システム・ベンダーに、全幅の信頼を置いていたため、富士通とのやり取りをベンダー任せにしてしまったことも後手に回りました。間に人が入ると、どうしても伝言ゲームになりますし、時間もかかります。電カルの契約はベンダーと僕との間であったとはいえ、直接、富士通とコンタクトを取っていれば、最後の定例会から1年8カ月間も質問が放置されることはなく、次の電カル選択が変わっていた可能性もあります。

また、この経験から、もっと冷静沈着に事を運ぶべきだったと思うようになりました。

RXは、あまりにも不具合が多く、診療や事務作業に大きな影響が出てきたため、感情的になってしまいました。富士通に対する僕の本意は、「一体型にしてほしい」という一点でした。それを実現してもらうためのしばりとして、「一体型になるまでは保守料を払わない」と言ったのであって、そもそも金銭的な要求が目的ではありませんでした。でも、結果的に保守料減免が感情的なしこりを残したことは否めず、その後、富士通が説明を先延ばしにする態度につながったと思いました。

とはいえ、今回のトラブルは、初動でどう対応すればよかったのかは、今でも答えは出ていません。

ここで書いてきたように、現状では、電カルの不具合について相談できる場所がどこにもありません。身内である医師会も保険医協会も、こうした問題に対応できる部署はなく、不誠実な虚偽広告や、医療ミスにつながる致命的なバグも、個別の問題として受け流されました。役所や業界団体に相談しても、適切な回答は得られませんでした。国は電カルへの移行を強く進めているにも関わらず、不具合が起こったときに相談できる部署もなく、医療安全に密接に関わる致命的な問題が起こっても、それを管理する制度や機関が何もないのです。

そのうえ、日々の診療に追われるなかで、電カルのトラブルを同時進行で解決していくのは難しく、ユーザーである医療者は圧倒的に弱い立場にあります。電カルの不具合をワンストップで相談できる場所が必要だと思います。

結果として、僕はこじれにこじれてから弁護士に相談したわけです。

ベンダーを通してもらちがあかなかったのに、弁護士に相談したことで、富士通から回答をもらうことができました。だから、もっと早くに相談していれば、保守料についてのトラブルなどは未然に防げたかもと思う一方で、難しさも感じています。

RXは、不具合だらけではあったけれど、直接、金銭的な損害が出ていたわけではないので、一体型でないと分かった時点で相談しても、弁護士が成果をあげるならRXの解約くらいしか選択肢がなかったかもしれません。

でも、電カルはクリニックの運営に欠かせないものです。そして、いったん導入したあとで、別の電カルに乗り換えるのは非常に困難です。スタッフの教育コストもかかります。そのため、多少、使い勝手がよくなくても、使い続ける方がよいこともあります。

ですから、たとえ弁護士をたててRXを解約し、お金が戻ってきていたとしても、それは根本的な解決にはならず、さらに困ったことが起こっていたかもしれません。

そして、僕の最大の失敗は、富士通に対する過大な期待だったのではないかと思っています。

現実的に、富士通が一体型の電カルを開発することは無理な話だったのに、僕はそこに固執してしまった。そのうえ、交渉が苦手で、さらに話をこじらせてしまった。いろんな意味で、世間知らずだったと言われれば、認めざるを得ません。

RXのことで経験したさまざまな思いも、今では失敗談として笑って話せるようになりました。そして、この僕の経験が、次に電カルで困っている誰かの役に立つかもしれない。そう思って書き始めたのが、「僕の『電カル』奮闘記」です。

思わぬことに、この連載を始めたことで、電カルの懇親会に呼ばれたり、電カル購入のアドバイスを求められたりするようになりました。

そうした場で、僕の経験をふまえて最後に付け加えているのは、「電カルはいったん導入すると、簡単には交換できない。長く使い続けるものなので、バージョンアップ前後の変化もリサーチしたほうがいい」ということです。

開業前は、一体型と連動型はどちらがいいのかとか、複数のカルテは開けるかとか、入力方法は簡単かとか、細かい仕様の違いに目がいきがちでした。もちろんそれも重要ですが、それぞれの考え方や使い方によって異なり、正解はありません。メーカーも、大企業なら安心かと思っていたら、そうではないことはこれまで書いてきたとおりです。

今回の経験で重要だと感じたのは、バージョンアップ時の使い勝手の変化でした。改善がまったくないのは困りますが、バージョンアップ全てがメリットとは限りません。せっかく慣れたのに、使い勝手が大きく変わると戸惑うことが多くなり、反対にデメリットになります。

僕は、RXからの切り替えでは、後継機種のLifeMark-SXを選びませんでした。それは、SXが一体型ではなかったこともありますが、それよりもSXが別の機種に見えたのも要因でした (その8)。

思えば、RXを購入したきっかけのひとつは、前の機種HOPE EGMAIN-CXから入力方法や表示が大きく改善されて洗練されたと思ったからです。それなのに、RXからSXに買い替えると、同じメーカーの電カルなのに、使い勝手が大きく変わってしまいました。そのうえ費用は高く、さらに診療の形態が変わってしまうのは考え物だと思って、販売終了間際のRXを買い直すことにしたのです。あれほど悩まされたRXを、再び買うことになったのは皮肉なことですが。

電子カルテは長く使います。ですから、電カルの新規導入を考えている人には、それぞれのメーカーがバージョンアップする時に、使い勝手をどのように変えてくるかに注目することもアドバイスしています。

さて、肝心の僕は、今の電カルの切り替えが必要になったら、どうするのか。

いろいろありましたが、この9年間で富士通の「連動型カルテ」に、僕もスタッフもすっかり慣らされてしまいましたし、やっぱり、次も富士通の電カルを買うのではないでしょうか(笑)。

(完)

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