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渡航雑感(03)

エンテベ行きの飛行機では, 右隣, 窓側に花柄のワンピースにネックレスを身につけた女性が座っていた. 彼女は, 轟音が鳴り響く閉鎖的な乗り物に耐えられず, しだいにどんどん塞ぎ込んで, 青い綿のストールにうずくまっていた. イライラや恐怖のようなものを抑えきれない様子だった. 客室乗務員が窓のサンシェードを閉めるよう指示していて, 誘導灯くらいの小さな照明だけが点々と光っていた.

もう, 開けてよいです.

ぼんやりとしているうちに機内は明るくなっていた.

空から大地やビクトリア湖が見えてくると, 彼女はそれまでとは打って変わって, ゆったりと歌をうたいはじめた. おだやかな表情を浮かべながらマイ・ホームよと嬉しそうに教えてくれた. 仕事から帰ってきたところだという.

確固たる故郷の存在, 強い安心感. わたしは日本が見えてきても, こんなにハッピーな気持ちにはなれなかった. もちろんこちらは長旅のラストスパートだということもあるけどね.

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