見出し画像

ショートショート:「ある雑誌記者の裏切り」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は、タイトル通りで雑誌記者二人による会話劇のようなものです。
〝裏切り〟っていうキーワードで書いてみたんですが、書いてる最中思ったことが、「だれしも裏切り者になりたくないだけで、裏切ったりしている」っぽいなと。
そこから色々膨らまして、書いてみました。
面白いと思っていただけたら、幸いです。


【ある雑誌記者の裏切り】

作:カナモノユウキ


編集部は朝から活気づいていた。
いや、混乱と言った方がいいか。
その混乱を招いた張本人を、俺は会議室に呼び出した。
「泉谷、お前どういうつもりだ。アレお前の担当だよな。こんなことしたらもうこの編集部にいられなくなるぞ。」
「これでも僕は本気です、僕ができる編集者としての責務を、真面目に果たしたまでです。」
こいつの真面目を俺は信じない、『真面目にやりました』なんていうのは所詮そいつの自己満足だ。
そんなものを信じるほど俺は馬鹿じゃない。
「真面目にやってんならこんな最低なことはしないんだよ、許可もなくこんなことをするなんて。」
「わかっています、十分配慮したつもりです。」
何の配慮なのか、もう取り返しはつかない。
コイツはもう終わりだ、五十年続く雑誌「週刊ストーリア」の歴史に泥を塗ったんだ。
可愛がるフリをして使ってやったが、共倒れはごめんだからな。
ここが縁の切り時だ。
「事の重大さが解らないないのか?この雑誌は芸術や政治、この国を語るために必要な断片を切り取り伝えてきた。ストーリアの歴史を見ても、数多の企業や政府のスキャンダルを暴いてきた実績がある。その名高い雑誌にギャグ漫画を無断で載せるなんて前代未聞だ、しかもあんな低俗な。」
「低俗なんかじゃありません!あの漫画は、後世に語り継がれる傑作です!」
「ただのギャグ漫画じゃないか、そんなもんを傑作なんて笑わせる。」
「田中さんのせいじゃないですか、手に入れた通信販売の超大手、レールカンパニーの脱税を決定付ける裏帳簿。協力者や僕を裏切って向こうに寝返り、公表を止める代わりに、金を受け取ったんですよね?そして、その帳簿の存在自体を無かったかことにした。違うとは言わせませんよ?」
「何のことだ?さっぱりわからない。そんなものは手に入れていないし、俺はそんなことはしていない。お前がただ躍起になって他人も巻き込み騒いだ、それだけだろ?それに、その裏帳簿とこれがどう関係するんだ。元々その記事を載せる予定が白紙になったからって、低俗なギャグ漫画で穴埋めなんて。しかも、元々の原稿は『復興支援団体のロングインタビュー10ページ』だよな。それを態々編集長の目を盗んでこんなもんに差し替えるなんて、どうかしている。」
こんなバカげたことをするやつとは思っていなかったが、俺の見る目が無かったか。
「さっきからバカにしていますけど田中さん、貴方も終わりですよ?」
「はぁ?何を言ってるんだ。お前が勝手にやったことだ。俺は関係ないんだぞ?何の負け惜しみだ。」
「負け惜しみ?田中さんさっき『何も知らない』って言いましたよね?何も知らないなら勝ったも負けたもありませんよね?それに、まだ気づかないんですか?この漫画の凄さに。」
「何がすごいんだよ、こんな低俗な漫画なんかのどこが……おい、おいおいおいおい。」
何だ、何だこの漫画。
登場人物の名前、漫画のセリフに使われている数字…これって帳簿の内容じゃないのか!?
「お前こんなもんいつ作ったんだ!確かにお前からは全ての証拠を回収したのに!」
「気づきましたか?帳簿の写しはもう関係各所に回しています、田中さんは確かに僕から証拠を回収しました。でも貴方が僕を利用して、甘い蜜を吸い取ろうとしていたのは読めていましたから。だから最初からデータをコピーして、発表方法も貴方が気づかない方法にした。漫画の解読方法はあらかじめSNSで告知して、少数名でも裏帳簿を理解できるようにしてあります。僕だってこんなことはしたく無かった。信頼していた先輩だったので、とても残念ですよ。」
「お前、よくも裏切ったな!」
「裏切ったのは田中さん!貴方じゃないですか!これはお互い様です。それに、今はどちらが先に裏切ったかなんて、どうでもいいでしょう。この会話も録音しました、お互いに終わりですよ田中さん。今まで、ありがとうございました。」
っクソ!……こいつを甘く見ていたせいで、こんなことになるなんて。
俺は確かに、見る目が無かったってことか。
「確かにストーリアは芸術と政治を伝える雑誌です。だからこそ現代の芸術作品たる漫画に、社会問題を練りこんでみたんです、正に相応しい作品でしょ?田中さん。」
得意げに喋りやがって、ムカつくやつだ。
「他にもやり方はいくらでもあっただろ、何でこんな回りくどいやり方をしたんだ。」
「『雑誌はしょせん娯楽』そう教えてくれたのは田中さんですよ。僕が考える最大限の娯楽がこれだったんです、それで貴方に一矢報いてみただけですよ。」

―――――数日後。

田中さんはその後、不正取引の罪などで書類送検されて会社をクビになった。
僕は漫画での告発が話題となり、経緯を知った会社からの恩恵もあって、編集部に残留出来た。
こうして兼ねてからの計算通りに、僕は先輩を裏切って追い出すことに成功した。
「田中さんの裏切り方は、身も蓋もありませんでしたから。予想以上にやりやすかったですよ。
人を呪わば穴二つって言葉が、貴方にはお似合いでしたね。
これでようやく仕事がやり易くなる。(笑)どうかお元気で…センパイ。(笑)」


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

今回の作品は僕にとっては「チャレンジ」してみたものだったので、少し粗が目立つなと心配なのですが、如何だったでしょうか?

書いているときの心情なんですが、最初に書いた通り「裏切り、裏切られ」だなと思いながら書いてました。
〝所詮人間なんて〟と捻くれているつもりは無いのですが、こと〝仕事〟に関しては、それも一つの手段としてあるのは間違いないと思っているので。
〝裏切り〟自体、自覚のあるなしに限らず、あまり珍しいものじゃないんだろうなと思いました。

……小学生の作文みたいですみません。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
 そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
 ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。

  1. ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
    ※事前報告、お願いいたします。

  2. 配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。

  3. 自作での発信とするのはおやめ下さい。

尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?