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無い物を作ることで失われるものが有る。

上平川字には大蛇踊りという300年前から受け継がれてきた伝統芸能があります。
セットは大掛かりで、大人の男達最低10人以上が協力しながらヤグラを立てる。
クライマックスの大蛇が暴れるシーンでは、大蛇の頭、胴体、尻尾をタイミングを合わせ、勢いよく引っ張る。
それは力のある大人の男しかできない役割です。

そこで僕は、小さく軽い柱と、小さく軽い大蛇を作れば、子供バージョンの大蛇踊りができて、伝承していけるんじゃないかと考えました。
それを飲みの席で友人に話すと、「一回同じこと提案したけど却下された」とのことでした。
理由は、廉価版のような大蛇踊りを作ることで価値が下がり、そんなものは伝承では無いということ(だったと思う…何せ酔ってたもので…)。

僕は自分の安易な発想を悔いました。
いや、悔いる必要はなくて色んな意見が出るのは良いことなんですが、お伺いを立てずに子供大蛇を作ってしまえば300年の伝統を失っていた可能性を想像出来ていなかった自分に絶望したのです。

大蛇踊りは伝統芸能でありながら、上平川字という大きな家族を維持していく為の大切なシンボル。
大人達が公民館に集まって練習する日は、子供達も夜中に堂々と友達と一緒に遊ぶ事が許されるから一緒に着いてくる。するといつも見ている大人達が全員で協力しながら真剣に何かに取り組んでいる。
大人の真似して演じてみるけど、やっぱり大人みたいに上手くできない。大蛇を綺麗に操る引き手に憧れているけどまだ引かせてもらえないから、強い大人になって引っ張らせてもらうんだと夢見る。演じる大人達がカッコよくて「僕もいつか主役を演じるんだ」と夢見る。

そんな大蛇踊りの周りにある字の暮らしそのものが伝承していかなくてはならないものであり、安易な発想で無くすことは決して許されないんです。

都会のシステムは生み出すことに長けているが、無い物を作ることで失われるものが有る、という可能性を全く考慮出来ていないでしょう。
それを知らない都会の人が、「この島にはこのサービスが必要だから作ってあげよう」なんてことをしようものなら、完璧なバランスで回っていた島システムの歯車が一気に崩れる可能性もあります。

大切なのは島のことは島のお年寄りたちにお伺いを立てるということ。
無い理由を知るには経験しかなく、僕たちがどう足掻いても追いつけるはずがありません。
お年寄りは敬わなければならないと漠然と教えられてきましたが、この歳になってようやく本当の意味らしきものに気づけた気がします。

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