10月22日は「図鑑の日」
図鑑は重い。それは色々な生き物の命の重さだと先生は言っていた。同じように辞書も重い、それは言葉の重みだと言っていた。
貸出ができる図鑑は少なく、大抵の図鑑は貸出禁止の赤いシールが貼ってあった。仕方がないので少し古い貸出ができる魚の図鑑を借りることにした。ランドセルには入らなかったので抱えて帰る。友達にはそんな本借りてどうするの? とか、図鑑じゃ感想文書けないよ? とか言われたが、僕はみんなが読んでいる本つまり、教科書のように縦に字がびっしりと書かれた本のほうが読めない。見ていると字がぐにゃぐにゃしてきて気分が悪くなる。だからそこにどんなに感動するおはなしが書いてあっても、どんなに楽しいおはなしが書いてあっても、気持ち悪さにはかなわない。
帰る途中のタコさん公園のベンチで、図鑑を見てみる。表紙には『魚図鑑』とシンプルに書かれている。そりゃ魚の図鑑なんだから魚図鑑だろうな。それから魚のアップの写真。普通の本だったら主人公のアップの絵とか、かっこいい絵が描いてあるが、魚図鑑は違った。
どこかで生きている(いいやもうこの写真の魚は死んでしまったか、もしかしたら食べられてしまったかもしれない)魚の写真が使われているところに意味がある。現実感があるのが好きだ。しかし、この魚の目は少し怖かった。なぜこんなにもギラギラしているのか。今まで魚の目をよく見たことがなかったというか、人間以外の生き物の目を見る機会はあまりなかったな。魚の目は何を訴えているかはその写真からは判断できないが、まさか自分が魚の代表、魚図鑑の表紙になっているとは知らない目なのは確かだ。
中を開いて驚いた。なんと魚たちは揃いも揃って左を向いていた。魚の反対側は18禁なのか。図鑑には左右公平に載せるべきだ。片方だけ見せられたら、反対側はどうなっているのか大変に気になる。
大きさも違うし色も違う魚が100種類以上載っているのに、まさか全員が左を向いているとは……恐ろしい魚社会。左向け左! ということなのだろうか。
そうだ、お家に帰ったらお気に入りの魚の反対側を描いてみよう。それを感想文として提出しよう。文ではなく反対側の魚だが、いいだろう。
重い魚図鑑を閉じ、また抱えた。そうして、タコさん公園を出て魚に習い左へ曲がった。
10月22日は「図鑑の日」
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