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9月10日は「クラウドの日」

彼の頭の上には雲があった。そんなのは当たり前じゃないか、人類の上には雲があり、そこからは恵の雨が降る。と思う方がほとんどだとは思うが、私の目の前にいる彼の頭にはパーソナルな雲が浮かんでいた。

小さい雲は彼が移動するとその動きに合わせて動き、まるで天使の輪っかのように決して頭からずれることはなかった。もくもくとした小さな雲は、よく観察すると微妙に動いているようで、少し大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら、ある一定の大きさを保とうとしているように見えた。

そして、彼が何かを思いだそうとするたびに、例えば昨日の夕食、先週読んだ本のタイトル、先月行った旅行先のホテルの場所、昨年会った人の名前などなど。頭をひねり、右上に目線を向けるたびに、彼の雲は普段よりも活発な動きをした。

そして、「昨日はサバの味噌煮を食べたよ」「先週読んで面白かったのは、『大富豪たちのトイレ』って本だよ」「先月伊豆のホテルに行ってさ……」「昨年すごい人に会ったんだよ。あの有名な、さやえんどうなおこに会ってさビックリしたよ」と記憶を思い出すたびに、雲から彼の頭に勢いよく雨が降った。過去の記憶を思い出そうとするたびに、雨の量は増え、雨足も激しくなった。

記憶を思い出すたびに、彼の頭はずぶ濡れで、メガネはびしょびしょで、肩まで濡れていたが、嬉しそうに記憶をさかのぼり話す彼には好感が持てた。

いつでも彼はびしょ濡れだ。

9月10日は「クラウドの日」

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