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8月14日は「水泳の日」

今日は夏休みのプール開放の日。

夏休みの朝はなかなか起きられないのに今日は違う。早起きして朝ごはんをしっかりと食べてプールバッグの準備をする。

先週のプール開放の日に友達たちは更衣室に入ったとたんに、あっという間に水着に着替えて更衣室から出てきた。そして誰もいないプールで遊んでいた。

不思議に思い友達の一人に、なんでそんなに着替えが早いの? と聞くと、なんと家から水着を履いて更衣室では服を脱ぐだけだからと言った。なんてこった! そうだよ、家から水着を履いてくればいいんだ!

そして、今日ぼくはその作戦を実行する。

うーん……部屋で水着に着替えるというのは変な気分だ。あーそれに水着の上に短パンを履くのも変な気分。なんだかすごくいけないことをしている気がする。

だけども、これを乗り越えないと人が少ないプールで遊べない。ソワソワしながら学校に向かった。

プール棟の入り口にはすでに何人かの子供が集まっていた。係りの先生が中からドアを開けてくれて、みんな我先に更衣室に急いだ。

更衣室に入るとぼくはすぐにTシャツと短パンを脱いであっという間に水着姿になった。そして一番にプールに到着! プールサイドにいた先生が「ちゃんと準備体操してから入りなさい」と言った。

ぼくは高速で準備体操をしてプールに入った。夏の暑さでプールの水はぬるかったけど一人のプールは最高だ。

そのあとはいつも通り、検定の時間があったり最後は自由時間があったりとあっという間にプール開放の時間は終わった。

そして更衣室に戻り、今日の作戦は大成功だったと水着を脱いでパンツを履こうとしたときに事件は起こった。

大事なことだから2回言おう。事件は起こった。

パンツがない。

ぱんつがない。

Pantu ga nai

……よし、一回落ち着こう。

家から水着を履いてくる→水着の上に短パンを履き、Tシャツを着る→更衣室でTシャツと短パンを脱ぐ→プール最高→プールが終わりビショビショの水着を履いている→パンツに履き替えなくてはいけない→

パンツがない。

人生終わった。そう。ぼくは水着を家から履くことに意識を集中しすぎて帰りに履くパンツを忘れたんだ。

マリー・アントワネットは言った。

「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」

ぼくは言った。

「パンツがなければ何を履けばいいですか?」

名言が誕生した瞬間でもあった。そんなことはどうでもいい。考えなくては。まさかこのビショビショの水着のまま短パンを履くわけにはいかない。

人生最大のピンチを迎えたぼくの頭にある言葉が浮かんだ。

ノーパン。

のーぱん。

No pan

そう。水着を脱いでいわゆるノーパンで帰るということ。仕方ないやるしかないんだ。決心したぼくの行動は早かった。何事もないように鼻歌を歌いながら水着を脱ぎ、涼しい顔をしてノーパンのまま短パンを履いた。

心もとない。

なんだこの心もとなさは……痩せた西郷隆盛並みに心もとない。全然大丈夫と言いながら片足引きずっているサッカー部員並みに心もとない。コンビニの新人店員さんがお客さんのおじさんに「あーホープ・スーパーライト」と番号で言われずに慌てる姿を並んでいるときに見るくらい心もとない。

参った。ここまで心もとないとは……スースーと風が入って来るじゃないか。

そして着替えが終わり(ただしノーパン)そのまますぐに家に帰ろうとしたがまさかこのタイミングで(ノーパンの)ぼくに

「このあと校庭でドッジボールしない?」

(ノーパンの)ぼくに友達がドッジボールに誘ってくれた。(ノーパンじゃない)ぼくなら喜んでドッジボールをやっていたけど(ノーパンの)ぼくはスースーしてきっとドッジボールに集中できないので断ることにした。

「ごめん、今日家の用事があって……」

この世界でぼくがノーパンであることを知っているのは、ぼくしかいないはずだ。しかし、この塩素の匂いのするコンクリート壁の更衣室から一歩でも外に出たならば、会う人全員にノーパンだということがバレてしまう気がして、ぼくは一歩も更衣室から動けなかった。

8月14日は「水泳の日」


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