6月22日は「かにの日」
「はい、いらっしゃい」
「どうも」と入ってきたお客さんに店の店主は元気にあいさつした。
「きょうはどうしましょうかね?」
「今日はね、この前みたいに短めにお願いしますよ」
「はい、かしこまりました」と店主は言うと、
チョキチョキチョキとお客さんの髪を切っていった。
「そういえばご主人、最近店の看板変えたんだね」とお客さんは言った。
「えぇそうなんですよ。前の看板が古くなって、最近は大雨や台風も多いし心配になっていっそのこと変えちゃったんですよ」
その間にも、店主はチョキチョキと軽快に髪を切っていく。
「あの看板は分かりやすくていいね。遠くからでも気が付くしね」
「そう言ってもらえると嬉しいです。どうです? たてがみの長さはこれくらいでいいですか? もう少しすっきりさせますか?」
「うーん、もう少し短めにお願いしようかな。これから夏本番だしね」
「かしこまりました」
チョキチョキチョキチョキ。
「そういえばね、看板の話なんですがね。最近どうも妙なお客さんが多くて少し困っているんですよ」
「ほぉ、いったいどんなお客なんだい?」
「それがですね、看板を新しくしてから人間のお客さんがたくさん来るようになったんですよ。もっと不思議なのがたぶん家族や友人同士だと思うんですけどね、複数人でくるんですよ。そんでもって、あたしの顔見て、申し訳なさそうにみんな出ていくんですよ」
「うーん、どうにも人間の考えることはわからんなぁ。看板が気になったのかね?」
「ねぇ、それに床屋なんて珍しくもないと思うんですけどね。はい、終わりました」
「人間だって床屋にいくだろうにねぇ」と言いながらお客は会計をして、お店を出た。
「いつもありがとうございます。ライオンさん」
「どうもありがとね」と言いながら去って行くライオンさんを、チョキの形のまま手を振る、カニの店長さん。
その店の看板は、巨大な動くカニの看板で、その下に小さな文字で
「カニの床屋さん」と書かれていた。
6月22日は「かにの日」
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