見出し画像

5月13日は「カクテルの日」

ペットボトルに夕日を閉じ込めることに成功したけれども、これは一時的な現象にすぎないと自分に言い聞かせ、その時思い出したことも一時的な、ほんの一時的な感情なので、あまり深く考えないことにする。意味はないただの偶然。

こんな暗いところで、大人はお酒を飲むのかと20代の私。

女性の体のラインよりも細いグラスに注がれる、カクテルを私はその女性を骨折させずに静かに持つことは不可能だと思い、だいぶ後になってやっと人差し指と親指で慎重に持って、それこそこんなに慎重に細くて華奢な体を持つのはバービー人形以来で、カクテルの色が美しいと気が付いたのは、バービーの持ち方をだいぶ心得てからだった。

グラデーションがかかったその赤色は一人で自立できる大人のバービー人形で、バーテンダーがそっと置いたときから身動き一つしないで、私が手に取るのを待っていた。(きっとほそーいタバコとか吸って待っていたのだろう)その色の赤は今まで見たどの赤にも似ていないようで、何かの赤に物凄く似ているようで、じっと見ていられる赤いものというのを想像したら、その赤の正体をつかめた気がした。

夕日の赤

納得。とこれが夕日の赤ならば私が飲み終えればこの世界は夜になるなと思い一人で笑った。となりの男性に不思議そうに見られるも、その世界的発見に私は笑いをこらえきれない。

結局、私はその店で夕日を完全に沈ませることなく、隣の男性とも話が弾むことなく、細くてくびれたバービーの体のラインを手に覚え、地上への階段を上った。不思議なことに地上に出ると空気の濃さが増したようで、地下の世界は酸素が薄かったんだな、だからあんなにぼんやりしたし、訳が分からない妄想が次々と押し寄せてきたんだなと思った。

地上はもう真っ暗で、誰かが今日の分のあの赤いカクテルを飲み干してしまった。

というどうでもいいことを、ペットボトルを見ながら思い出し、そのまま、意味のない味のない一時的な赤い水をあの時飲めなかった分までごくごくと部活終わりの学生のように飲んでやった。

5月13日は「カクテルの日」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?