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6月21日は「冷蔵庫の日」

これは友達から聞いたはなしです。

一人暮らしをはじめたばかりの、ナオキは東京の暮らしにやっと慣れてきました。満員電車もどこへ行っても混雑して並ぶ店にも。

一人暮らしをする部屋は狭く、ベットが部屋の主人であるかのように部屋を占領しています。一人暮らしといえばベットとあまり部屋の広さを考えずに憧れだけで買ってしまったことを少し後悔しましたが、今ではその寝心地を気に入っています。

そんなある日。

寝苦しい夜のこと、玄関につづく廊下から何やら声が聞こえる気がする。
まさか……まさか、幽霊?

そんなバカな。しかし、そんなときに限って昔テレビでやっていた心霊番組を思い出します。

一人暮らしの部屋に出る幽霊……。この部屋で自殺した怨念が、夜ごと恨み辛みを……。

あぁ、確認しないと怖くて眠れない。ベットを出て廊下に向かう。自分の部屋なのに妙に足音をたてないように、静かに静かに移動して、そーっと引き戸を開けた。

そのとき、髪の長い女の幽霊が……

もちろんいなかった。幽霊なんて影も形もない。電気を付けてトイレ、お風呂も覗いたがなにもいなかった。

しかし、廊下で静かに耳をすますと、やはり声が聞こえる気がする。

男の声のようなこもった気がして、声がしている方向を探す。どうやら廊下に備え付けてある台所付近からのようで、さらに耳をすますと、こもった声は冷蔵庫から聞こえるようだ。

すぐに冷蔵庫を開けたかったが、その前に冷蔵庫に耳をあてて声が本当にするのか確かめてみた。すると、

「……寒い 寒い……寒い」

意を決して冷蔵庫の扉を開けた。そこには……。

*****

「あ、メグミおばさん? おれ、ナオキ」

「あら、どうしたの? なんか用?」

「いやそれがさ、昨日マコトが遊びに来た時に、おもちゃ忘れて行かなかったかと思ってさ」

「やだ、やっぱりナオキの家に忘れてたのね。ごめんね、マコトに取りに行かせるね」

「ううん、今度そっち行くとき届けるよ。ちなみにさ、ちょっと聞きたいんだけど、この木彫りの人形ってどこで買ったの?」

「あ、それね。それうちの旦那がハワイのお土産に買ってきて、マコトに渡したやつなのよ。なんだか、子供のおもちゃにしてはしっかりした作りよね」

「そっか……そうなんだ。ほんと立派な人形だったから心配で。じゃ、今度持っていくね」

「悪いわね。ありがとう」

そういって叔母との電話を切った。

冷蔵庫から救出した、その人形は昨日遊びに来た従兄弟のマコトがふざけて冷蔵庫に入れたものだった。

昨日の夜、冷蔵庫から救出したその人形は、夜のうちに小さなサイズのタオルでくるんで、できるだけ暖かくしてあげた。

そうか、ハワイ出身なら寒いよな。

6月21日は「冷蔵庫の日」




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