10月1日「ネクタイの日」

「あの、すみません」

ここはこの国の由緒ある国立博物館だ。この国の歴史を語る上で欠かせないお宝がたくさん収蔵されている。そんな収蔵品の中でも特に多いのは先代の国王に関連した品々だ。

「はい、何かご質問でも?」

今ぼくがいるのはその名も国王の間。先ほど話した先代の国王のゆかりの品が並ぶ部屋だ。国王が執務で使った机、数々の歴史的な条約を結ぶ際に使用した万年筆、国内を移動する際に使った車。その中でも特に厳重に防弾ガラスで覆われた品があった。

「あそこにある、特に厳重に保管されているものは……ぼくにはネクタイにしか見えないのですが……何か特別なネクタイなのですか?」

すると、博物館の学芸員さんは、はきはきと説明を始めた。

「ごほん。先代の国王は無表情の王と呼ばれるほどまったく表情が変わらない王様でした。悲しいときも泣かない。うれしいとき楽しいときも笑わない。そんな王様でした。しかし、とある国から来た芸人一座の舞台を見た時に王様ははじめて笑ったそうです。気をよくした芸人がつけていたネクタイをなんと王様の頭に巻いたのです。家臣一同冷や汗がでましたが、王様はネクタイをつけられさらに上機嫌になったそうです」

その説明を聞きながら、まじまじとネクタイを見てしまった。

……それはただの古ぼけたネクタイにしか見えなかった。

「確か、その芸人さんはエンタツ・アチャコという名の方たちだった気がします」

10月1日「ネクタイの日」


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