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20180225 恋

春の鹿もぐもぐ宮島水族館
夢醒めてやどかりもぬけの殻である
柴犬とあなた土筆を踏んで来る
芳草やバイクの近き遠き音
花杏落つる座つていればいい

野田彩子さんの『潜熱』を読んだ。ひさしぶりに漫画を読んでなんというか、痺れた。大学1年生の夏休み、コンビニでアルバイトを始めた瑠璃は、毎日タバコを2箱買いに来る中年男・逆瀬川に惹かれる。ある日、瑠璃は逆瀬川に自ら近付き、逆瀬川も彼女を受け入れる。逆瀬川は裏社会で働くひとだということを、瑠璃はまだ知らない。

いわゆるヤクザと女子大生の恋愛という、少し特殊な設定なので読者を選ぶのだろうか。Amazonのレビューを見ると、絶賛しているものと、生理的に受け入れられない、という温度差の激しい感想が混在している。

恋愛漫画の設定を受け入れられるかそうでないか、というのは個人の性的志向が影響すると思う。だから学校や会社が舞台になりがちなのだろう。大方の社会のイメージに投影して描く方が多くの読者を獲得できる。わたしは学校や会社などという舞台に共感しにくい日々を送ってきたので、ありふれた日々みたいなのは逆に特殊なのだけれど。瑠璃のように、知らない世界に感情で踏み出していくほうに共感する。

舞台よりも重要なのは、そこに描かれる感情だろう。強い感情はどのような状況でも説得する。瑠璃が逆瀬川に、逆瀬川が瑠璃に惹かれている事実は、絶対的である。現実的じゃないかもしれないけど、惹かれているふたりがいる。それは恋愛の描かれ方として紛れもない。

そういうわけで恋愛漫画が好きです。そこに描かれるのは理想だけれど、理想に自らの感情を引っ張られてゆくのが気持ちいい。

「人が恋に落ちる瞬間を見てしまった」。美術大学が舞台の羽海野チカさんの『ハチミツとクローバー』で、新入生の花本はぐみに出会い、竹本祐太が彼女に惹かれた表情を捉えた真山巧のモノローグである。恋に落ちるのは理屈ではなくって、直感。突如生まれる感情に揺さぶられることがドラマチックだなあと思うし、理由など無くても理解できる。

こどもの頃は『りぼん』を愛読していて、なかでも谷川史子さんの漫画が大好きだった。谷川さんは『恋をするひとたちのひたむきな思い』を作品でずっと描かれている。

全作品好きなんですけど、一番印象に残っているのは『きみのことすきなんだ』。魚屋さんの息子・慎一が恋をしたのは魚が嫌いな女の子・なみ。20年以上前の作品なので、男の子が主人公の少女漫画というのも当時は珍しかったのでは。なみに魚を(自分を)好きになってもらうため奮闘する慎一の姿が眩しい。谷川さん、今は少女誌から女性誌に舞台を移されて、わたしのような元りぼんっ子を楽しませてくださっている。今も大好きです。

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